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「むしろごめんなさい。俺がもうちょっと考えて行動してれば、迷惑をかけなかったのに……」 「迷惑だなんて思ってねぇよ」  腹に回された腕にギュッと力が入る。  隙間なく密着した背中から龍之介の体温が伝わってきて、温かい。  しかし、昨日まで心地よいと思っていた温もりが、今は心をざわめかせた。  嫌ではない。  嫌ではないのだが……やけに気恥ずかしい。 「お前のお陰で、結奈をさらった奴が誰なのか分かったんだ。ありがとな、ユキ」  耳元で囁かれた言葉がこそばゆくて、幸人は小さく身じろぎする。  自分は与えられた仕事をこなしているだけだ。  それでも、感謝をされると胸が温かくなる。 「お礼を言うのはまだ早いっすよ。これから先、どうなるかも分からないし」  犯人である零落神を見つけられるのか、結奈を助けることが出来るのかも分からない。  もしかしたら、罠を仕掛けても何も掛からない可能性だってあるのだ。  そうなってしまえば、その後の調査は難航するだろう。 「何言ってんだ、礼に早いも遅いもないだろ。なんなら毎日だって言ってやるぞ?」 「そんなに感謝されるようなことしてないです!」 「してるだろ。俺の作った飯を美味そうに食って、今だって抱き枕になってくれてんだ。それに、毎日かわいいから見てるだけで癒される」  小さくうめきながら寝返りをうった幸人が、困ったように眉を下げて龍之介を見た。 「それって全部、感謝とは関係なくないっすか?」 「大ありだ。お前のおかげで、最近は心穏やかに過ごせてんだから」  結奈が行方不明になってからというもの、事件が黒縄組と敵対する組織の犯行である可能性も考えつつ調査を進め、混乱に乗じてシマの乗っ取りを企てる連中への対処をし、とにかく組全体が忙しかった。  それに加えて通常業務と、調査が思うように進まない苛立ちを抱えて過ごしていたのだ。  そんな状況が幸人が来てからスムーズに進むようになったのだから、感謝の二つや三つしたくもなる。 「お前がいなきゃ、俺たちは手がかりの一つも見つけられなかっただろうよ。だから礼くらい素直に受け取っとけ」 「……分かりました」  戸惑いながらも頷けば、龍之介が幸人を抱き寄せる。  優しく後ろ頭を撫でる手が心地よくて、幸人は龍之介の胸元に顔を埋めて、目を閉じた。

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