70 / 78
1-13. 遭遇
翌朝。
龍一郎邸の庭に集まったのは、八人の若い男たちだった。
誰も彼も派手な柄シャツを身につけたり、タトゥーを入れており、一目でカタギではないと分かる出立をしている。
「ご苦労だったな、原田」
「いえ……」
「お前らも、朝から集まってもらって悪いな」
龍之介が声をかければ、横一列に並んだ男たちが野太い声で返事をした。
彼らは一様に、緊張した面持ちで背筋を伸ばす。
「今日呼び出したのは、結奈の捜索を手伝ってもらうためだ。早速で悪いが、適当に二人組になってくれ」
言いながら、龍之介が昨日作った御札と地図を配る。
手にしたソレを見て、男たちが困惑の表情で顔を見合わせた。
彼らからしてみれば、御札なんて奇妙な文字の書かれた紙にすぎない。
「これから指定したエリア内にコイツを貼ってきてもらう。面倒だからって捨てるなよ? ちゃんと確認するからな」
「……あの、郡司さん」
一人が控えめに手を挙げて、龍之介が発言を促す。
男は龍之介の機嫌を損ねないように、慎重に言葉を選びつつ疑問を口にした。
「この御札を貼ることで、一体どんな効果があるんですか?」
御札と言えば、火災や厄なんかの悪いことを除けるために貼るというイメージが一般的だが……。
神社の由緒正しき品でも効果のほどが分からないのに、可愛らしい丸文字で書かれた手作り感満載の御札なんて、正直胡散臭い以外の感想が出てこない。
「それは俺から説明しますね! 結奈ちゃんをさらった犯人が分かったので……」
龍之介の隣に控えていた少年が口を開いて、男たちは更なる困惑の渦に飲み込まれた。
組長が霊能力者にお嬢の捜索を依頼した、という話は知っている。
その霊能力者の面倒を、龍之介が見ることになったというのも伝え聞いていた。
だが、まさか龍之介が霊能力者を信用し、本気で捜索を任せているとは思わなかったのである。
「……というわけで、この御札があれば犯人を見つけられるかもしれないんです!」
自信満々に胸を張る幸人の頭を、微笑ましげに龍之介が撫でた。
「偉いぞ、ユキ。ちゃんと説明出来たな」
「もー! 子ども扱いはやめてくださいってば!」
ぷぅと膨らんだ白い頬を、龍之介がつつく。
次いで幸人が拗ねたようにそっぽを向けば、龍之介は瞳を細めて愛おしげに笑った。
何か見てはいけないものを見てしまった気がする。
人目をはばからずにじゃれあう二人から、男たちがついと視線をそらした。
龍之介があんな風に人を甘やかす姿は初めて目にしたが、出来ることなら上司のプライベートな姿など見たくはなかった。
「今聞いた通りだ。報酬も用意してあるから、きっちり頼むぞ」
男たちが揃って返事をして、庭を出て行く。
こうして、結奈を見つけ出すための作戦が始まったのだった。
ともだちにシェアしよう!