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 御札の裏に貼られた両面テープのシートを剥がし、電信柱の前にしゃがみ込む。  人目に付きにくい低い位置にペタリと貼り付けてから、幸人は立ち上がった。 「これで十枚目ですね!」 「あぁ、残り半分だ」  龍之介たちを入れて、集めた人間は十人。  三人の被害者が出た場所を一つの大きな円で囲い、五等分したエリアにそれぞれ二人一組のチームを配置した。  先ほど配布した二十枚の御札を、等間隔で貼ってもらうためだ。 「まだこの辺りにいるなら、引っかかってくれると思うんだけど……」  零落神は、何故だかこの地域の人間ばかりをさらっている。  近隣を治める土地神だったのか、もしくはどこかに廃神社でもあるのかと思い龍之介に尋ねてみたが、そのようなものは見たことがないと言われた。  実際こうして歩いていても、寂れてはいるが信仰の残る神社ばかりが見つかる。  夏祭りや初詣など、節目節目で人が参拝に来ている証拠だ。  これなら、零落なんてするはずもない。 「なぁ、ユキ。犯人を見つけて、それからどうするつもりなんだ?」 「それは……まだ考え中っす」  幸人が誤魔化すように笑う。  零落神に少しでも理性が残っていれば、説得の余地もあるかもしれない。  しかし、完全に狂ってしまっているのであれば、自力で被害者たちの居場所を探す必要がある。  なんとかして根城の位置を知ることが出来ればいいが……。  最悪の場合、わざと零落神にさらわれることも視野に入れておかねばならない。  幸人自身も去年祖母を亡くした身だ、条件は満たしている。 「おいこら、なんか碌でもないこと考えてねぇだろうな?」  固い表情で視線を落とした幸人の頭を、龍之介がポンと叩いた。 「危ないことはすんな。昨日みたいにぶっ倒れたら、外出禁止にするからな」 「それじゃ結奈ちゃんを探せないです」 「お前は部屋から指示を出せばいい。あとは俺がなんとかする」  隣を歩く龍之介を見上げて、幸人が不満げに口を尖らせる。 「いくら龍之介さんが強くたって、俺がいないとすぐ負けちゃうんすからね? それに龍之介さんは依頼人で、俺が依頼を引き受けたんです。一人だけ安全なところになんかいられません」  霊能力者として依頼を受けたのだから、先頭に立って結奈を探すのは当たり前だ。  ただでさえ金銭面で世話になっているのに、霊的存在と争ったこともない龍之介を、いきなり零落神と対面させるわけにはいかない。 「龍之介さんは数日前に初めてオバケを見た素人なんです。し・ろ・う・と。分かります?」  少しばかり頼りない姿を見せたかもしれないが、この仕事に関しては幸人の方が経験も知識も上だ。  すずめの涙ほどかもしれないが、一応プライドだってある。

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