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◇
「うわぁ……。なんかオシャレ!」
店内はテーブル席と座敷席に別れていた。
大きな窓からは、手入れされた中庭が見えている。
落ち着いたインストロメンタルが流れる中、カウンターの向こう側で、熊のように大きな店主がカップを磨いていた。
店主はちらりと幸人たちを見たが、すぐに視線を手元に戻す。
「どの席がいいですか?」
「どこでも。お前の好きな場所でいい」
龍之介が言って、少し悩んだ素振りをした後、幸人は窓際のテーブル席に着く。
並んで座る二人の向かい側に男が座り、無愛想な店主が水とお手拭きを置いて戻った。
「なんでも好きに頼んでください。先ほども言った通り、ここは私の奢りですから」
威嚇するような龍之介の視線に怯むことなく、男は人好きのする笑顔でメニュー表を差し出す。
キラキラと瞳を輝かせた幸人がそれを受け取って、中身を確認した。
「みんな美味しそうですよ、龍之介さん……!」
生クリームたっぷりのパンケーキや、ふんだんにフルーツを使ったパフェなど。
スイーツの写真をよだれでも垂らしそうな表情で幸人が見つめている。
その様子を眺めていると、思わず気が抜けそうになるが……龍之介は一つ咳払いをして姿勢を正した。
今この場所で何かあった場合、幸人を守ることが出来るのは自分だけである。
気を引き締めて、向かい側の男を見やる。
「あぁ、ご心配なく。暴力的な手段を取るつもりはございませんので。あくまでも話し合いがしたいだけです」
両手を肩まで上げて、男が丸腰であると主張する。
「アンタも霊能力者なんだろ? だったら、どんな術を使うかも分からないんだ。警戒くらいしないとな」
「それは少々買い被りすぎですねぇ。私には彼ほどの才能はございませんよ」
男がちらりと"彼"に視線を送るが、当の本人はどこ吹く風といった様子で、メニュー表と睨めっこを続けていた。
「俺は決まりました! 龍之介さんは何にするんですか?」
「アイスコーヒーでいい」
「えぇー、サンドイッチとか美味しそうですよ?」
不満げに口を尖らせながら、幸人がメニュー表を龍之介に見せる。
そこにはたまごサラダやレタスを挟んだサンドイッチの写真と共に、数種類の名前が並んでいた。
「お前が食いたいだけだろ?」
「ちちち違いますよ! 俺はただ、何か食べながら話した方が場が和やかになるかなーって!」
明らかに動揺して、あちらこちらに視線を泳がせる幸人。
もっともらしい言い訳をしているが、それが本心でないことは、この場の全員に伝わっているだろう。
「分かった分かった、たまごサンドでいいか?」
「……ミックスサンドがいいです」
「じゃあ、そいつも頼んじまうぞ」
俯いてもじもじとしながら言った幸人の頭を、龍之介がわしゃわしゃと撫でてやった。
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