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「では、改めて自己紹介をさせてください」  注文を終えて、男が居住まいを正す。 「私、霊能力者保護管理局『煌羽』に所属しております、土師隆臣(はじ たかおみ)と申します。  以降お見知り置きを、と頭を下げる男に釣られるように、幸人も会釈をした。 「で? その霊能力者保護管理局がなんの用だ?」 「それはもちろん、幸人くんのこれからについてお話をしようと思いまして」  幸人の今後と聞いて、龍之介の眉間にしわが寄る。  まさかとは思うが、この男は幸人を連れて行くつもりなのだろうか?  だとしたら、黙っておくことなど出来ない。  ここで幸人を奪われるわけにはいかないのだ。 「でも、その前に我々がどんな組織なのか説明させてください。何か誤解があってもいけませんので」  男が汗をかいたグラスを持ち上げて、水を一口飲む。 「幸人くんは、我々のことをどのように聞いていますか?」 「えっと、婆ちゃんは仲介屋さんだって言ってました。オバケの仕事をするなら、所属しておいて損はないって」 「なるほど、朱鷺子さんは我々をそんな風に見ていたわけですね」  土師がニコニコと言った。  朱鷺子の元には、日頃から様々な困り事が寄せられていたのを幸人は覚えている。  無くしものを見つけてほしい、人を探してほしい。  そんな依頼もあれば、除霊や呪詛に関する依頼もあった。  そのうちの何割が煌羽からの紹介で来た客だったのかは分からない。  だが、いくら朱鷺子が有名な霊能力者だったとはいえ、その知名度だけであれだけの人間が相談に来ていたとは考えにくいだろう。  なんせ、山奥の寂れた村に住んでいたのだ。  生半可な覚悟では訪ねてこないだろう。 「まず、我々には本物の霊能力を持つ者の保護と、害をもたらす恐れのある怪異を監視する役目があります」  男が順に人差し指と中指を立てて、説明を始めた。 「お二人も知っての通り、自称霊能力者は世の中にたくさんいます。しかし、幸人くんや私のように、本物と呼んで差し支えのない霊能力者は、ほんの一握りしかいません。その割に、怪異による事件は年々増え続けている……。今回、郡司家のご息女を襲った事件も、怪異絡みだと聞き及んでおります」 「……誰から聞いた?」  龍之介が普段よりも低い声で問う。  結奈をさらった犯人が怪異であることは、龍之介と幸人、そして付き人をしている原田しか知らないはずだ。  龍一郎や龍蔵にも伝えていない話を、なぜ見ず知らずの男が知っているのか……。  一瞬原田を疑うが、あの男は金を積まれても情報を漏らすような真似はしないだろう。  それだけ忠誠心の高い人物だと、龍之介は買っていた。 「実は、村にいた時から幸人くんには式神をつけていましてね」  男がパチンと指を鳴らすと、机の上に小さな金魚が浮かび上がる。  猩々緋色の鱗を煌めかせながら、空中でゆったりと円を描くそれを見て、幸人がわぁと小さく声を上げた。

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