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「擬人式ですか?」 「えぇ、その通りです」  幸人が手を差し出すと、金魚が躊躇うことなくするりと手のひらの上へと移動する。 「危なくねぇのか?」 「大丈夫です、この子は戦闘用じゃないので」  主に、式神は三つの種類に分けられると言われている。  術者の思念を式神とする思業式神(しぎょうしきがみ)  悪霊や妖怪を自らの手で倒して服従させ、使役する悪行罰示神(あくぎょうばっししきがみ)。  草木や紙、藁人形に霊力を込めて作られる擬人式神(ぎじんしきがみ)  思業式神は術者の能力がそのまま反映されるため、ある程度の実力がなければ役に立たない。  悪行罰示神は強力な反面、隙を見せれば寝首を掻かれる危険性と常に隣り合わせにある、諸刃の剣だ。  見たところ、この金魚は擬人式神の中でも下級のものだろう。  自我が薄く大したことは出来ないが、手軽で簡単に使役できる優れものだ。 「言ってしまえば、この式神はGPSです。幸人くんがどこで何をしているのか、我々の元に常時報告をしています」 「なるほど、要するにストーカーってわけだな」 「否定はしませんとも」  わざと棘のある言い方をした龍之介に、土師がハハハと笑ってみせる。  だが、龍之介からしてみれば笑い事ではない。  幸人周辺のこととは言え、組織内部の情報が思わぬ形で漏れていたのだ。  結奈の捜索以外で幸人を組に関わらせるつもりはないが、このままスパイを泳がせておくわけにもいかない。  それに何より、煌羽も目の前の男も気に入らなかった。 「お前、村にいた頃から幸人に式神をつけてたっつったな」 「はい」 「だったら、コイツがどういう状況に置かれてたかも知ってんだろ? なんで手を貸してやらなかった?」  幸人が生贄として捧げられそうになっていたことを、監視していた土師や煌羽が知らないわけがないだろう。  組織ぐるみで見て見ぬふりを決め込んでいたのなら、到底許すことは出来ない。 「なんというか、あの村の状況はいろいろと複雑でして……。それに、結果として郡司さんが連れ出されたわけですし、これで丸く納まったということにしてくださいよ」  取り繕うように笑った土師に、龍之介が舌打ちをする。  確かに他の人間が幸人を連れ出していれば、二人が出会うことはなかったかもしれない。  幸人が村を出た後の足取りも掴めないなら、結奈に関する手掛かりを見つけることも出来ず、きっと調査は詰んでいた。  それだけではない。こうして隣に立つことも、触れ合うことも出来なかったのだ。  結果オーライだと言われてしまえば黙るしかないのだが、いかんせん癪に障る。 「龍之介さん、顔怖いですよ?」 「本当なら、俺じゃなくてお前が怒るべきなんだぞ?」 「えぇー。怒るのって疲れるし、俺はいいです」  口を尖らせた幸人を見て、龍之介がため息をつく。  その時、テーブルに注文品が到着した。

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