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目の前に置かれた可愛らしいプリン・ア・ラ・モードを見て、幸人が興奮した様子で龍之介に声をかける。
「龍之介さん、見て! アイスがカッパになってる!」
くいくいと服を引かれてプリン・ア・ラ・モードを見れば、確かにそこにはカッパがいた。
船形の皿の上に、たくさんのフルーツや生クリームと一緒に盛られたプリン。
その上に乗ったバニラアイスに、クッキーで出来た頭の皿とくちばしが付いており、つぶらな瞳と鼻の穴がチョコレートで書いてある。
この実に愛らしいプリン・ア・ラ・モードを、あの無愛想な熊のような店主が作っただなんて、簡単には信じられない。
幸人が嬉しそうにスマートフォンで数枚の写真を撮っていると、続いてサンドイッチが運ばれて来る。
どれもこれもパンの間にたっぷりと具材が挟んであり、食べ応えがありそうだ。
「どうぞ、召し上がってください」
土師に勧められて、さっそく幸人がサンドイッチに手を伸ばす。
「いただきまーす!」
ハムとレタスが一緒に挟んである、厚みのあるたまごサンドを嬉しそうに眺めてから、大きく口を開けて頬張った。
「どうです?」
「たまごサラダがいっぱいで美味しいです」
「そうでしょう、私もよくお昼に食べるんですよ」
パンからはみ出したたまごサラダが落ちないように、気をつけながらサンドイッチを食べ進める。
そんな幸人の頬にたまごが付いているのを見つけて、龍之介が指先で拭ってやった。
「ったく、落ち着いて食えよ。サンドイッチは逃げねぇぞ?」
ぺろりと指先に付いたたまごを舐め取れば、幸人の頬が見る見るうちに赤く染まる。
どぎまぎとした表情で俯いて、少しずつサンドイッチを口に運ぶ幸人を、龍之介は複雑な気持ちで見つめていた。
幸人が嬉しそうに食事をする姿は、見ていて微笑ましいし、もっと食べさせてやりたくなる。
しかし、それと同時に自分以外の手料理で瞳を輝かせる幸人を見ていると、胸の内がモヤモヤとするのも事実だった。
出来ることなら、幸人にとって一番美味しい料理は龍之介の手作りであってほしい。
あのキラキラとした瞳と幸せそうな笑顔が、自分にだけ向けられたならいいのに、と思わずにはいられない。
(料理のレパートリーを増やさないとな)
そのためには、味の研究や見た目の良さも追求しなければならない。
幸人の好きな食べ物はもちろん、スイーツも作れるようになった方がいいだろう。
帰りしなにレシピ本でも見て行こうか?
そんなことを考える龍之介の隣で、幸人はプリン・ア・ラ・モードどこから食べようか悩んでいる。
「では、本題に戻らせていただきますね。我々の目的は怪異によって引き起こされた事件の解決と、霊能力の悪用の阻止です」
机の上で両手の指を組んで、土師が話し始めた。
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