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「今、幸人くんは郡司さんからの依頼を受けて事件を調査していますよね? それと同じように、我々煌羽からの依頼も引き受けて欲しいのです」 「それは構いませんけど……。婆ちゃんみたいになんでもは出来ませんよ?」  一言に霊能力者といっても、得手不得手がある。  除霊は苦手だが呪術が得意なもの、霊の類いを見ることは出来ないが、占いで未来を言い当てることが出来るものなど様々だ。  朱鷺子は万能でなんでも出来たが、幸人はそうではない。 「それと、今は結奈ちゃんの事件に集中したいので。すぐに仕事を受けるのは無理です」 「もちろん、承知しております。事件解決の暁には、こちらで新しい住居を探すお手伝いも出来ますので」 「その必要はねぇ」  土師の言葉に、龍之介の鋭い声が飛ぶ。 「ユキはうちで面倒を見る、余計なことすんな」 「おや、幸人くんの滞在は事件が解決するまでという約束では?」  人当たりのいい笑みを崩さない土師と、不機嫌さを隠そうともしない龍之介が静かに睨み合った。  二人の顔を、スプーンをくわえた幸人が見比べる。 「気が変わった。コイツを手放すつもりはねぇ」 「それは、彼に利用価値があるからですか?」  土師が様子を伺うように小首を傾げた。  確かに、幸人の力は便利だ。  情報収集、人探し……その力は応用すれば何にだって使えるだろう。  だが、龍之介は幸人の力を本職に活かそうとは思ってもいない。 「んなもんどうでもいい。俺はただ、コイツと一緒にいたいだけだ」  幸人と過ごすようになってからまだ数日。  好きな食べ物、誕生日、嫌いなもの……基本的な情報も手に入れられていないのだ。  一緒に暮らす中で心の距離は縮まっていると感じてはいるが、もっともっと幸人のことを知りたいし、自分のことも知ってもらいたい。 「そうですか……。いえ、最近は霊能力を悪用する輩も増えていましてね。ほら、そちら様も信仰をシノギにすることがおありでしょう?」 「コイツを組に関わらせるつもりはねぇ。カタギの手を借りずとも、うちは安泰なんでな」  兄の龍一郎は金を稼ぐことが得意だ。  黒縄組が資金繰りで悩むことは、よっぽどのことがない限りあり得ないだろう。  だから、幸人の能力を利用して金を稼ぐつもりはない。 「それに、コイツの面倒を見るって約束したしな」  村を出る時、和尚に言われた言葉を思い出しながら、龍之介が幸人の頭をポンと叩く。  土師の手前、もっともらしいことを言いはしたが、本音の部分では幸人を人前に晒したくないだけだった。  龍之介は"大切なものは盗まれないように、大事にしまっておく"主義だ。  わざわざ見せびらかして、他人の興味を集める必要はない。  幸人の魅力は、自分だけが知っていればそれでいいのだ。

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