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「婆ちゃんは格が違うんで。それに、あの人は火気を使うことが多かったんですけど、俺は相性が悪いから……必要な時は 火界呪 を使います」
「なるほど、悪意を持って使えないわけですね」
土師の言葉に、幸人が頷いた。
火気、というのは五行思想に基づいた、炎を操るすべである。
温める、燃やす、乾かす……炎の持つ性質を引き出して様々な用途に使用出来るが、幸人の使う術はまた別物だ。
「でしたら、別の要因が働いたわけですね。人為的なものか、霊的なものかは分かりませんが」
「あの、村のみんなに怪我は?」
「ありませんよ。お宅は全焼しましたが、ちょうど無人だった様です」
「そうですか……よかったぁ」
村を出はしたが、村人たちを恨んでいるわけではない。
怪我人がいないと聞いて、幸人が胸を撫でおろす。
「そういえばお前、村長に家財全部持って行かれたとか言ってなかったか?」
「あっ」
龍之介に言われて、みるみるうちに幸人の顔色が悪くなる。
自分の私物は燃えてもいい。祖母との思い出の品もあったが、仕方がないと諦められる。
問題は儀式で使用する道具や、祖母が預かったいわく付きの品々だ。
年月をかけて少しずつ除霊をしなければいけないものや、供養する予定だった写真に人形。
そういったものも村長が全て持って行ったのだ。
一緒に燃えてしまった可能性は十二分にある。
「婆ちゃんの私物とか、供養前の呪いの人形も村長宅にあったと思うんですけど……大丈夫ですかね?」
幸人が上目遣いに土師を窺った。
その表情からして、自分が一番大丈夫ではないことを理解しているのだろう。
問題ないと言って欲しそうな幸人から、土師がついと視線をそらす。
「あー……まぁ、恐らく……なんとかなるんじゃないですか?」
その返答の仕方では、誰が聞いても大丈夫ではないと分かるだろう。
幸人が眉尻を下げて俯いた。
「村長だって、お前らの仕事のことは知ってんだろ? だったら、危ないもんは倉庫にでも保管してるんじゃないのか?」
少しでも幸人が責任を感じないように、龍之介がポジティブな可能性を提示する。
しかし、幸人は首を横に振った。
「村長は、お金が一番大事な人でしたから。俺たちの仕事にも、呪いや幽霊にも興味ないと思います」
「幸人くんの存在を、最大限お金儲けに使おうとする人でしたからねぇ」
土師の言葉に、龍之介が訝しげに眉を寄せる。
「金儲け?」
「高額な寄付をすると特別なお祓いが受けられるとか、俺と食事が出来るとか、そんな感じっすね」
なるほど、と龍之介が頷いた。
幸人の能力なら、霊的なものを祓うのは朝飯前だろう。
その上、この見た目のよさだ。下心を抱いて貢ぐ輩の一人や二人、いてもおかしくはない。
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