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「本当なら、俺と一緒に食卓を囲むだけでも別料金がかかるんすよ? 二人はもっと有り難がってくださいね!」  幸人が冗談めかして笑いながら、えっへんと胸を張る。  その様が可愛くて、龍之介が恭しく幸人の手を取った。 「このように身に余る光栄をいただき、感謝いたします」  ちゅ、と音を立てて手の甲に口付ければ、幸人が慌てて手を引っ込める。 「やめてくださいよ、土師さんが見てるじゃないですか!」  責めるような目で龍之介を睨む幸人だが、頬はほんのりと色づいていた。  龍之介がいたずらっぽく片頬をつり上げる。 「人前じゃなきゃいいのか?」 「そういう意味じゃなくて……!」 「私は構いませんよ。仲良きことは美しきかな、とも言いますので」 「俺が構います!」  ぷぅっと頬を膨らませた幸人を、龍之介と土師がニコニコと見守っていた。 ◇◆◇◆◇◆ 「名刺の方に私の連絡先も書いてありますので。何かありましたら、いつでもご連絡ください」  食事と会話を終えて、土師がプリン・ア・ラ・モードとサンドイッチ、コーヒー二杯分の支払いを済ませる。 「どうせ奢りなら、もっといろいろ食っときゃ良かったな」 「こちらとしては、お二人が常識的で助かりました」  ニヤリと笑った龍之介に、土師も軽い調子で返す。  話し合いを始めたばかりの頃の緊張感や警戒心は、幾分と和らいでいた。  最初の宣言通り、指を折るような事態にならなくてよかったと、幸人が胸を撫でおろす。 「それでは、お帰りはこちらの扉から……」  土師が店の扉に手を伸ばした時だ。  トントンと肩を叩かれて、龍之介が振り返る。  すると、そこには熊のような店主がのっそりと立っていたのだ。 「何か?」  龍之介も背が高身長と呼ばれる部類だが、この店主はそれ以上に高い。  軽く二メートルはあるのではないか、と思っていると、目の前に銀色に光るフォークを差し出された。 「もしかして、幸運の食器ですか?」  キラキラと瞳を輝かせた幸人が、興味深そうにフォークを眺める。 「欲しいならお前が貰ったらどうだ?」 「ダメですよ! 店主さんは俺じゃなくて、龍之介さんにフォークを渡そうとしてるんです。俺が持ってても意味ないんすよ、きっと」  幸人の言葉に、土師がうんうんと頷く。  よく分からないが、そういうことらしい。  龍之介がフォークを受け取れば、店主は無言で厨房へと戻って行った。 「良かったですね、龍之介さん!」 「俺には普通のフォークに見えるんだが……」  しげしげと眺めるが、それはどこの家庭にもありそうな、なんの変哲もないフォークだ。  家に帰って食器棚にでも入れてしまえば、他のフォークと見分けが付かなくなってしまうだろう。 「持ってればきっと良いことがありますよ!」 「持ってなきゃダメなのか?」 「多分……? 俺も初めてだから、実はよく分かってないっす」  誤魔化すようにあははと笑った幸人。  龍之介は戸惑いつつも、フォークをジャケットの内ポケットにしまった。

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