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1-14. 零落神
「……零落神です」
幸人の表情が一気にこわばる。
まぶたを閉じて数回深呼吸すると、踵を返して走り出した。
「あ、おい!」
龍之介も慌てて幸人を追いかける。
「どうするつもりだ?」
「誰かが襲われてるなら助けて、話が通じそうなら会話してみます」
新たな被害者を出すことだけは避けたい。
しかし、相手がどの程度の力を持つかは未知数だ。
話をするだけの理性が残っているなら説得を試み、それが無理なら相手が逃げ出すように仕向けなければならない。
零落しているとはいえ、元は神。
社が残っているのなら、これまでの神隠し事件の被害者がそこにいる可能性は高い。
「お爺ちゃんは仲間を呼んできてください! もしかしたら力が必要になるかもしれないので!」
「心得た!」
「龍之介さんは、追われてる人がいたら安全な場所に連れて逃げてください!」
「嫌だ」
間髪入れずに返ってきた言葉に、幸人が困ったように龍之介を見た。
「おそらく戦闘になります、一緒にいれば巻き込まれますよ?」
「お前、言っただろ。ボディーガードになってくれって」
龍蔵宅から帰る際に言われた言葉を思い出す。
あの時、幸人は敵と戦うことになったら、時間稼ぎをしてほしいと言ったのだ。
もちろん被害者がいるなら助けはするが、幸人を置いて逃げるなんて真似はしたくない。
「ま、一蓮托生ってやつだ。お前が戦うなら、俺も逃げるような真似はしねぇよ」
「龍之介さん……」
幸人がどこかホッとした顔をした。
いくらその道のプロとはいえ、やはり実戦ともなれば緊張するのだろう。
「ただし、無茶はするなよ? ヤバいと思ったら担いででも撤退するからな」
「努力はします!」
その返事に苦笑しつつ、龍之介は内心でするつもりはないな、と呟いた。
「零落神が移動を始めました。急ぎましょう!」
新たなターゲットを見つけたのか、それとも探し歩いているのか。
どちらにせよ、二人は住宅街を駆け抜ける。
◇◇◇◇◇
見知った道を幸人の先導で走っていると、途中でプツリと見えない薄い膜の中に入り込んだような、奇妙な感覚に包まれる。
次いで、周囲の音が消えたのだ。
遠くに聞こえる車の音、どこかの飼い犬が吠える声。
一切の音が消え去って、龍之介は思わず足を止める。
「人払いの結界っす。多分、これのせいで結奈ちゃんの手がかりが見つからなかったんだと思います」
「神ってやつはそんなことも出来るのかよ……」
人一人を周囲の人間や監視カメラから欺いて、誰にも気づかれないよう連れ去ってしまう。
そんな人智の及ばぬ真似を出来る存在が、本当にこの世にいるなんて。
龍之介の背がぞくりと震える。
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