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「答えてください! あなたの望みはなんですか?」 「……う、ぁ」  微かに、零落神の喉から声が漏れた。  幸人に向かって腕を伸ばし、歩みを再開する。  思わず後ずさりしそうになったが、幸人はなんとかその場に踏みとどまった。  千福を呼び戻すと、傍に控えさせる。  零落神が何か伝えようとしているのか、少年の代わりに幸人を連れて行こうとしているのかは分からない。  だからこそ、その真意を探る必要がある。 「……っ!」  零落神が近づくにつれて、空気中を漂う穢れが濃くなる。  村で人々の厄を食べていた頃でさえも、これほどまでの穢れは見たことがない。  もしもこのレベルの穢れが村の近くで確認されていたなら、自分はすぐに埋められていただろうなと幸人は思う。  千福が威嚇するように大きな羽音をたてた。 (龍之介さん、怒るかな)  再三に渡って龍之介に言われた「無茶をするな」という言葉を思い出す。  龍之介は自分のことを心配してくれている。それは分かっている。  だが、今の幸人の実力では、無理をする他ないのだ。  どんな言い訳をするか考えておかなければいけないな。なんて独りごちて、幸人は再び零落神に呼びかける。 「俺に出来ることなら力になります。だから、聞かせてください」 「たす、けて」 「え?」  予想外の言葉が飛び出して、幸人は瞳を見開く。  聞き間違いか? と思ったのも束の間、零落神が再び口を開いた。 「たすけて」  今度ははっきり"助けて"と聞こえた。  聞き間違いなどではない。零落神は確かに、幸人に助けを求めたのだ。  零落神が目の前まで迫る。  長い髪の間から覗く真っ黒な眼孔が、幸人を見下ろした。 「あなたに、何があったんですか? どうしたら助けられますか?」  緊張で声がうわずる。  それでも、幸人は覚悟を決めた。  逃げることなく零落神と向き合い、その二つの暗闇を真っ向から見据える。  指先の震えは、ギュッと拳を握って隠した。  怖気付いている暇などない。  零落神が手を伸ばす。  途端に目の前がくらりと揺れて、幸人は眉を寄せた。  世界が回って、キーンという耳鳴りがする。 (あ……これ、ダメかも)  意識が遠のき、膝から力が抜けていく。  前のめりに倒れ込む幸人の耳に、龍之介の声が聞こえた気がした。 ◇◇◇◇ 「幸人っ!」  龍之介が戻って来た時、目の前で幸人が膝を折った。  力無く崩れ落ちるその背中を見て、心臓が強く脈打つ。  自分がいない間に何があった? やはり一人にするべきではなかったのだ。  零落神が手を伸ばし、幸人の体を受け止める。  その様子を見て、龍之介は舌打ちをした。 「そいつに触んな!」  臆することなく零落神に駆け寄り、幸人を握りしめた手に向かって拳を打ちつける。  肉を殴った感触はあった。  だが、零落神はびくともせず、幸人を離す素振りも見せない。  その上、零落神に触れた拳にチリチリと焼け付くような痛みが走る。

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