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 それでも龍之介は怯まない。  痛みを無視して両手で零落神の指を掴むと、全力でこじ開けようとした。 「こんの……離せっつってんだよ!」  固く閉ざされた指が、少しずつ開いていく。  苛立つように唸り声をあげた零落神が、ぶんと拳を振るった。  たったそれだけの動きでも、龍之介の体はいとも簡単に吹っ飛ぶ。  ブロック塀に背中を叩きつけられ、肺から息が漏れた。 「くそ、馬鹿力め」  アスファルトに手を付き、零落神を睨む。  立ち上がった龍之介に「大丈夫か?」とでも言うように、千福が寄り添った。 「お前のご主人さまが捕まってんだぞ? ちったぁ手ぇ貸せよ」  その言葉に答えることもなく、千福はジッと龍之介を見ている。  幸人の命令でなければ聞かないのだろうか?それとも、幸人が手を出すなと命令しているのか……。   短くため息をついて、龍之介は零落神に向き直った。  力比べでは完全にこちらの負けだ。  真正面からぶつかっても、今と同じ結果になる未来しか見えない。  ならば、どうやって幸人をとり戻す?  幸いと言うべきか、零落神は龍之介を脅威だとは判断していないようだ。  追撃をすることも無ければ、警戒した様子もない。  ただ、うるさい蝿を追い払ったようなものなのだろう。 (幸人を連れて行かせるわけにはいかねぇ)  それこそ終わりだ。  幸人がいなければ結奈は見つからず、零落神を止めることも出来ない。  新たな被害者だって増え続けることだろう。 (どうする? どうすれば幸人を助けられる?)  歯噛みする龍之介の脳裏に、喫茶マヨヒガでの様子がよぎる。 「もしかして、幸運の食器ですか?」  それは、熊のような店主が龍之介に差し出した食器を見て、幸人が言った言葉だ。 「そうだ、フォーク!」  ジャケットの内ポケットから、喫茶マヨヒガのフォークを取り出す。  あの日からなんとなく持ち歩いていたのだが、まさか今が使いどころなのだろうか? 「なんでもいい、役に立ってくれよ!」  龍之介はフォークを固く握りしめると地面を蹴る。  勢いを乗せて振りかぶり、零落神の指目掛けて全力で振り下ろした。 「南無八幡!」  銀のフォークが零落神の指に突き刺さる。  その瞬間、金切り声を上げて零落神が幸人の拘束を緩めた。  しかし、龍之介はそれでは終わらせない。  フォークの柄を両手で持ち、さらに深く押し込む。  ぶちぶちと肉を断つ感触がして、黒い液体が雫となって落ちる。 「あああ、あああぁ!」  零落神が痛みに悶絶し、ついに幸人を取り落とした。  龍之介はすぐさま力の抜けた体を抱き上げると、零落神から距離を取る。

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