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「ユキ、しっかりしろ!」  呼びかけながら頬を軽く叩くが、幸人は目を閉じたまま反応を示さない。  唯一の救いはしっかりと呼吸をしていることだ。  見たところ命に別状はなさそうで、龍之介が安堵の息をつく。 「喫茶店の店主に礼を言わなきゃな」  小さく呟いた龍之介の前で、零落神が後ずさった。  カランと音を立てて、フォークがアスファルトに落ちる。  先ほどのように、すぐ傷は塞がるだろうと思っていたのだが、どうも様子がおかしい。  零落神は呻きながら傷ついた手を抱え、龍之介から距離を取る。  フォークによって出来た傷からは、いつまでも黒い液体が流れ続けていた。  どうやら再生しないらしい。 「まだやるってんなら、相手になるぜ」  零落神の視線を受け、幸人を守ろうと龍之介が立ちはだかる。  拳を構えた瞬間、零落神の体から黒いモヤが噴き出した。  それは煙幕のように視界を遮る。  龍之介は咄嗟に息を止め、横たわる幸人を抱きしめた。  少しでもモヤを吸わないように、頭を胸に引き寄せる。  どこから攻撃されてもいいように身構えていたのだが……モヤが晴れた時、そこに零落神の姿はなかった。 「逃げた、のか?」  呆気に取られた様子の龍之介の脇を、千福がすり抜ける。  振り向けば、千福は素早い動きで路地の向こうに消えていった。  気づけば、周りの音が戻ってきていた。  頬を撫でる風、遠くに聞こえる車の音。  龍之介は幸人を抱き上げると、そのまま龍樹の元へと向かった。  いろいろと考えたいことはあるが、このまま路地の真ん中でぼうっとしているわけにもいかない。  龍樹の無事を確かめ、幸人が目覚めるのを待つ必要もある。 「無茶ばっかしやがって……」  幸人が目覚めたら、しっかり説教をしてやらなければならない。  なんならそのまま数日間、部屋で謹慎させてもいい。  幸人は嫌がるだろうが、何度言っても聞かないのだから仕方がないだろう。  見張りをつけて、結奈探しは龍之介と部下で行なってしまおうか? 「本当に、困ったやつだ」  呟いて、龍之介は幸人の寝顔に視線を落とした。

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