93 / 100

 食い扶持が減り、一人が食べられる量は少し増えました。  飢えは凌げませんが、これならなんとか生きていくことが出来そうです。  多くの犠牲を払って、村は飢餓を乗り越えました。  分厚い雪が解け、山菜が芽を吹きだした頃。  随分と痩せこけた村人たちは、ようやく平穏な生活への一歩を踏み出したのでした。  動物を狩り、つくしやよもぎを採り。  生きられなかった人々のぶんも懸命に生きる。  しかし、飢餓の残した傷も癒え始めた時に、事件が起こりました。  東のお山の麓で遊んでいた子どもが一人、いつまで経っても帰って来ないのです。  村人たちは総出でお山を探しました。  松明を持つもの、太鼓を打ち鳴らすもの、子どもを呼ぶもの。  生い茂る木々の深くに分け入り、何日もかけて懸命に探しましたが、結局子どもは見つかりませんでした。  その数日後、再び子どもが一人いなくなります。  日にちをあけてまた一人、もう一人。  村人たちは、いよいよ困り果てました。  山で迷った、動物に襲われた。  そういう次元の話ではない、何かが子どもたちをさらっているのです。  村は出来る限りで対策をしました。  子どもたちを決して一人にはせず、外から来る見知らぬ人間を警戒し。  夕方が来る前に一人残らず子どもを室内にいれ、一歩も外に出ることを許しません。  それでも、いつの間にか子どもの数が減っているのです。  誰もが諦めかけていたその日、村に旅の行者がやって来ました。  彼はすぐに村に漂う不吉な気配に気づき、村長へと声をかけます。 「この村で、何か困ったことは起きていないか?」  村長はすぐに子どもたちのことを話しました。  すると、行者はこう言ったのです。 「何か悪いものが山にいる。そいつが村に降りて来て、子どもたちをさらっているのだ」  村長はピンと来ました。  もしかしたら山に捨てられた者たちが、化けて出ているのかもしれない。  飢餓の時に老人や子どもを口減らしで山へと連れて行き、供養もしていないことを伝えると、行者は険しい顔で腕を組みます。 「それが原因かもしれない。彼らの魂が怨霊と化しているのなら、鎮めなければもっと被害が出ることになるぞ」  なんとかしてほしい、と村長は行者に泣きつきました。  このままでは村から子どもがいなくなってしまう。  そうなれば、この村に未来はありません。  行者は頼みを受け入れ、山へと子どもたちを探しに行きます。  子どもたちに罪はありませんし、もしも山で死んだ人々の魂が怨霊と化しているのなら、供養をするつもりでした。

ともだちにシェアしよう!