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「ユキ……。頼む、目を覚ましてくれ」  暗闇から意識が浮上して、一番最初に聞こえて来たのは龍之介の声だった。 「お前がいなきゃ、これからどうすりゃいい? 俺はもう、一人で飯を食うなんてごめんだぞ」  左手に感じる心地よい体温。  その温もりを握り返して、幸人はゆっくりと目を開ける。 「……龍之介さん?」 「ユキ! 大丈夫か?」  勢いよく立ち上がり、幸人を覗き込んだ龍之介。  大きな手が頬に触れる。  心配そうに眉根を寄せた龍之介だが、その後頭部にしがみ付いた万福が、まるで大きなリボンのように見えて、幸人の口元がふにゃりと弧を描いた。 「ふふ、龍之介さんかわいい」 「あ?」 「リボンしてるみたい」  くすくす笑う幸人を見ていると、全身から緊張感と力が抜けていく。  龍之介はどさりとベッド脇に腰を下ろすと、長いため息をついた。 「思ったより元気そうだな……」 「心配してくれてたんですか?」 「当たり前だろ、バカ」  もしもこのまま、幸人が目を覚まさなかったら?  本当は、そう考えただけで居ても立っても居られなかった。  しかし、頼みの千福はどこかに飛んで行ったきり帰って来ず、万福に至っては先ほどからこの調子だ。  土師にも連絡してみたが、出来ることはないと言われ、途方に暮れる。  付喪神の時のようにキスをすればいいのか、それとも黙って見守るべきなのか。  考えていたらちょうど幸人が目を覚ましたのだ。 「辛くないか? キスは?」  幸人の髪を撫でながら龍之介が問う。 「大丈夫です。今回はあの時と違って、お話ししてきただけっすから」 「話? 零落神とか?」  幸人が頷いた。  ベッドから起き上がると、どう説明するべきか思案する。  龍一郎にも話を聞いてもらうべきだろうか?  いや、とりあえず結奈が無事なことだけ伝えておけばいいか。 「そうだ、あの男の子は?」 「龍樹なら無事だ。ありがとな、お前のおかげだ」 「みんなで頑張ったからですよ」  そう答えつつも、幸人ははにかんだように微笑む。  龍之介にお礼を言われると、どうにも胸の内がくすぐったい。 「零落神のこと、聞きたいですか?」 「気にはなるな」 「じゃあ、俺が見たことを全部話しますね」  そう言って、幸人はぽつりぽつりと語り出した。  零落神の過去、どうやって神になり、何が原因で零落したのか。  龍之介は幸人の話を黙って聞く。  一区切りがついたところで、眉間に皺を寄せた龍之介が口を開いた。 「神社ってのは、なくなる前に神をどうにかしないのか? 移動させるとか、成仏は……ちょっとちげぇか」 「普通はしますよ。神職の人にお願いして、神さまが元々いた神社に帰したり。引き取ってくれる神社があれば、お引っ越しさせたり」  稲荷なら稲荷へ、役目を終えた神にはお帰りいただくものだ。  しかし、零落神はどこにも所属していない神だった。  忘れられたのか、神自身があの地を離れることを拒んだのかは分からない。

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