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第8話
「だから、女の子紹介するって」
「いや、だから遠慮するって」
「何でだよ!」
「だから!今は恋愛する気ないんだって」
「お前夏休みになんかあっただろ!?」
「は?何言ってんだよ」
「夏休み明けから何か変だった」
「何もねーよ。それよりバイトの時間大丈夫なのかよ」
「今から行くよ。でも、何かあったらいつでも話せよ」
「あぁ、ありがとな。そうするよ」
今日最後の講義が終わってケンジとそんな話をしながら講義室を出て、ケンジと別れた。ケンジは今日バイトでオレは休みだ。さーて、今日はどうするかなーと、思いながらケンジの後ろ姿を見送っていたところ、急に後ろから声がした。
「潤」
ん?と思い振り向こうとしたが、ギリギリ名前を呼んだ相手の顔を見る前に止まった。オレはオレの名前を呼ぶこの声を知っている。この声で呼ばれても振り向かないようにしていた記憶が残っていたみたいだ…
「シン…」
「うん」
そのまま、前に向き直す。
「……」
「今日時間ある?」
「あるって言ったらどうすんだよ」
「このまま、潤の家に行きたい」
「…勝手にすれば?」
「うん、行く」
微妙な距離感で、話すこともなく帰った。
いつか偶然でも何でもシンが声をかけてくれるかもしれないから、すぐに目隠しできるようにバンダナを持ち歩いていた。玄関に入る前に一言言う。
「先入って目隠しするから、少ししてから入ってこいよ」
「…分かった」
部屋に入って持っていたバンダナで目隠しして座って待つ。
「潤」
「何だよ。話でもあんのか?」
「いや、話とかじゃなくてさっき友達と話してたこと…本当?」
「何を聞いてたわけ?」
「恋愛はしないって」
「あーそれな、人を好きになるのっていろいろ面倒くさいなって感じたから」
「どうして?紹介してもらって上手くいかなかった?」
「…」そこまでお前に言う必要ある?」
「……」
「紹介を止める権利がないのと同じでオレの色恋沙汰を聞く権利もお前にはないだろ?」
「それはそうなんだけど…」
「お前は何なんだよ。何がしたいのかわかんねー」
「だって…」
「…もういいだろ?帰れよ」
「…潤…ぎゅーしたい」
「は?意味わかんねーオレはお前がどんな顔でぎゅーしてんのかも見れないのに…だいたい先にこの関係を終わりにしたのはお前だろ?」
「確かに…そうだね。でも、ずっと見てたよ潤のこと」
「だから、気持ち悪いって」
「…潤はオレが来なかったから怒ってるの?」
「別に来なくなるのはいいけど、何も言わずに終わりにしたことに正直ムカついてんだよ。いきなり現れていなくなるなんてお前オレのこと舐めてんだろ」
「そんなことないよ、、だけどこの関係に終止符を打ったら二度と潤に会えない気がしたから…」
「最初っから会ってねー、オレは目と目が合わなきゃ意味ないと思ってるから。あーお前は別にいいんだもんなオレの目がお前を見ていなくても」
「潤!そんなこと言わないで」
「だってそーだろ?」
「オレだってあの状態でいいなんて思ってなかったよ!だけどっどうしても顔を見られるのは怖いんだ。それでも、いつか…いつか潤の目を見て好きだって伝えたいって…」
「それで?まぁ、こんなことありえないけど顔を見て気に入らないから付き合えないってなったら余計にキツくないのかお前は」
「それは…」
「お前分かってないだろ?この時間が長ければ長いほどお互いにとって何のメリットもない。逆にマイナスだってこと」
「でも…」
「オレは暗闇の中で一人だ。どんなにお前とぎゅーしても…シンは今こんな風に笑って、こんな風にいじけてって…暗闇の中で勝手にシンを作り上げてる。そんなんでいいのかよ。本当のお前を見ていないオレでいいのかよ…」
「嫌だ…」
「何でお前がそんなにも顔を見られたくないのか知らねーけど…これ以上オレを巻き込むなよ。オレは何も知らないのに待ってやれるほど器でかくねーから」
「……」
「……」
「…ごめん」
「…もう次はないから…こんな風に目隠しして話すこと。…だから言っとく、オレはお前といた時間が忘れられなかった。確かに関係を終わらせようとオレも思ってたけど、顔を見せたくないお前と、顔を見たいオレじゃ実ることはないって諦めたからだ。でも好きだ。オレたちは無理だって分かっても好きだ。正直、忘れるまでに時間がかかると思う…だけど、やっぱり顔をみて笑ってキスしてセックスして抱き合いたい。
「潤…」
「とりあえず今日は帰って」
「待ってっ、潤。今日は帰る。だけど、少しだけ…少しだけでいいから待ってて欲しい…」
「……」
「潤…お願い…」
「…分かったよ」
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