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第3話

 ある日の夜。人間の金切り声を聞いて咄嗟に眠りから覚めたバルドは、遂に見つかってしまったのかとビクビクしながら洞窟から顔を出した。  だが実際のところは、この先に人が住んでいたのだろうか、盗賊に襲われそうになっている若い女性が一人。  しかもそのままひっそりと会話を聞いていたら、女性は「お腹に赤ちゃんがいるから命だけは」と……。  盗賊は金品を要求するだけでなく、武器を持っている。  そんなの、捨て置けなくて……勇気を出して姿を現したら、盗賊は勝手に怯えて逃げていった。  何もしていないけれど、結果的に人間を助けてしまったことになる。  だが彼女はバルドを怖がるどころか、おかげで子供も助かった、ぜひ村の用心棒のような存在になってほしい、と泣いて感謝されて。  どうせ彼女がイレギュラーなだけで、また怖がられてしまうんだろうな、と思いつつ、彼女の手前断りきれずに渋々引き受けた。  しかしそれからは、村民もバルドを人間と隔たりなくとても良くしてくれた。  助けた赤ん坊も無事生まれて、数年経った今では子供たちは幼い頃からバルドを通してオークを当たり前に見て慣れている。  王都と遠く離れているせいもあるのか、この村はどことなくみんな温かかった。  一人が困っていれば全員で知恵を絞って助け合う、家族という感じの結束力があった。  おかしな意味では、バルドが元々いた環境のように、同種でありながら違う思想を持っているだけで寄ってたかっていじめるとか、そんなこともない。  というより、王都に比べ不便な地を選んで生活しているということは、みんなも迫害を受けたりして逃れた先なのかもしれない。  意思の疎通もできず殺戮の限りを目的とした怪物ならさておき、今さら何もできないオークの一匹、いてもいなくても変わらないんじゃないか。  全く怖くない……優しい人間族もいるものなんだな……と、バルドは考えを改めた。  力が必要な時は木ごと木材を運び、女性たちからは家事を教わり、子供たちの警護をしながら外を駆け回って遊ぶ。  自由だった。心の底から楽しかった。楽園みたいなこの日々が、一生続けばいいと思った。

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