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第4話

「ふぅーっ、たくさん採れたなぁ、みんな喜んでくれるかなぁ」  作物を育てるのに良い土壌であるのは知っていたから、そこに畑を作るよう提案して、協力して農業もしている。  見るからにおいしそうに育った新鮮な野菜を収穫し、木で編んだカゴに入れてルンルン気分で村へと歩くバルド。  しかし異変を察知して立ち止まる。  村の入り口付近には、見知らぬ馬、それも明らかに野生ではなく誰かに飼われている、美しい毛並みと筋肉質なオスの青鹿毛に乗った青年がバルドを蔑んだ目で睨んでいた。 「ほう……まさか本当にまだオークの生き残りがいたとは。しかもニメートル級超え……これはなかなかの上物だ」  高飛車に言い放つ彼は、光り輝く金髪を短く整え、晴天をそのまま宿したような青い瞳のたいそうな美男。  怪物によっては素早く動けなくてはならないためか、全身を覆うほど重厚すぎる装備ではない。しかし眩い銀色の防具を四肢に装着していた。  背負った両手剣は柄頭やところどころに豪華にも金があしらわれている。  (つば)はグリップ部分も含めれば、神を信仰する国柄、十字架の形にも見える。その間のくぼみにサファイアも埋め込まれ、槍ほど切っ先が鋭い武器。  その顔を見るのは初めてだったが、こんな格好と武器を持った人間はごくごく限られている。  バルドの人生が一変したあの時もそうだった。特にこの特徴的な剣には強烈に覚えがある。あの時の騎士の後継者とは、彼なのであろう。  王国の国王直々に怪物退治を専門とする騎士として任命されるほど、高貴な家柄かつ強さを誇る人物。  オーク族、ゴブリン族、いや怪物と言われる生き物全てがその名と偉業を知っている。  山に棲み付き、数々の森林や人里に降りては猛威を振るっていたドラゴンの中でも、滅多に目にしたことがない、漆黒の神々しくも凶悪なそれを狩ったという噂は一時期国中で持ちきりだった。  戦利品として首を持ち帰って装飾にさせ、その際に抜いた一本の牙を首飾りにこれ見よがしに身に付けていることから、それは真なのだ。  ゆえに、「竜殺しのファング」と誰が言ったか肩書きまで付いて、余計に強そうな名前になってしまっている。  人間族には羨望の眼差しを受け、あらゆる種族からはいつ自分の番が来るかとさながら地獄の番人扱いだ。  先代の功績もあってか、若くして騎士団長でもある彼は、怪物退治の依頼とあればどんなに離れた場所でも、王国領の各地を転々として狩りに赴く。  どうしてそんなにも高明な騎士様がここに……。

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