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第5話
後光すら差して見えるファングは馬から降りたが、村民と比べれば背も高い部類に入る。
王都で栄養に困らない食生活をしているせいだろうか。
剣に手を伸ばしつつ、一切の迷いも恐れもなく歩を進めながらバルドを責め立てる。
「賞金首のゴブリンを探しに来たはずが、オークにも遭遇するとは……まあいい。ここで遭ったが百年目だ。両方とも殺せば何も問題はない」
「そ、そんな。バルド、ただ静かに暮らしてるだけ。たまに村の人たちの手伝い、してるだけ」
「人間の言葉が通じるのか? それなら話は早い。お前のような穢らわしい化け物が蔓延っているせいで、王国領はいつまで経っても平和にならん。個人的な恨みはないが……ここで死ねぇっ!」
ファングが剣を抜く。
手入れはされているが、これでどれだけの怪物退治をしてきたのだろうか、考えるだけで失神してしまいそうだ。
いきなり突進して斬りかかられて、尻もちをついた。
「わあぁっ!?」
確かにオークと言うだけでこうしてハンターの類いに狙われたことは数知れずだが、同種族とも、もちろん他種族と戦ったことなんて人生で一度もない。
逃げることだけは得意だが、相手は人間族で、国王や教皇の次ほどに最も民の支持を集めているファングだ。
逃げられる気がしない……。
尻もちをついたおかげで、ギリギリのところで剣をかわすことになり、怪我もせずに済んだ。
「外したか。運のいい奴め。しかし今度こそ……っ」
また問答無用でファングは両手を振りかぶる。
しかし、逃げることに長けたバルドは巨体ながらも、剣が振り下ろされるタイミングで転がって避けた。
代わりにみんなの元に届けるはずだった野菜がザックリと裂かれていて、剣の斬れ味を証明する。
「チッ……的は大きいはずなのに何故当たらん。すばしっこいオークもいるとは……しかしどうせ殺すなら、こう手応えがなくてはなぁっ!」
「ヒーッ! け、剣を、収めてくださいっ! バルド、何も悪いことしてない、お願いしますっ……」
回避に徹しているだけでもイライラを募らせただろうが、情けなく許しを乞うたのもいけなかった。
ファングが見るからに怒りに震えている。
「虫けら同然の分際で俺に楯突くとは……っ。このぉっ……! なんて奴だっ、やはり怪物は生かしておく価値もない! 早く俺のノートゥングの餌食になれえぇっ!」
それがファングの愛剣の名前だろうか。
怒涛の攻撃の連続に何度もかわしてもいられなくなって、切っ先を喉笛に突きつけられ……遂に死を覚悟した瞬間、
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