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第6話
「や、やめてーっ! バルドをいじめるなぁっ!」
争いに気付いたのか、いつも遊んでくれる村の少年が駆け寄ってきて、懸命に叫んだ。
それを聞いてか、村人たちも何事かと続々集まってきた。
「な、なんだ……? こいつはオークだぞ? どうしてこんな怪物を庇う!」
「知ってるよ! でもバルドは村の力仕事とか手伝ってくれるし、料理も上手いし、遊んでくれるしっ! すっごく良いオークなんだ! だいたい僕が生まれたのだって、バルドが盗賊からお母さんを守ってくれたからなんだぞ、何も知らないのに差別するなバカーっ!」
少年が恐れ知らずにファングの股間を力任せに蹴った。
さすがのファングもそのような仕打ちは受けたことがないのか、思わず両膝をついて困惑と共に悶絶している。
声も出せずにプルプル震えている様は、とても颯爽と怪物退治をしている騎士長とは思えない。
オスたるもの、急所中の急所だ……バルドもファングが冷や汗をかいてあまりにつらそうにしているせいで、殺されかけたというのに不憫にすら思ってしまう。
「あ、が、ハァッ……お、俺を誰だと思って……く、クソガキがっ……」
「僕たちのバルドに手出す方が悪いんだよ、ざまぁみろ!」
「ちょっと何してるの! って……あぁぁっ、まさかそのお姿と剣……竜殺しのファング様では……」
ファングの正体に気付いた少年の母が血相を変え、心底申し訳なさそうに頭を下げる。
機嫌を悪くしている少年にも髪を引っ掴んで無理やりに頭を下げさせて、他の村人もざわざわとし始めた。
「う、うちの息子がすみませんっ、すみません……わざとではないのです、どうかお許しください……! うちは貧乏なので少ない食糧しかありませんが、お、お慈悲を……」
「……あのオークが、盗賊からガキを守った……だと」
「え、ええ……本当です。この子がまだお腹にいる時のことですが……」
「そんな話信じられるものか……あいつはっ、オークなんだぞ!? 皆……脅されているのではないか!? ええい埒が明かない、この村の長は誰だ! 名乗り出よ!」
怒りと混乱に燃えるファングの元に、野次馬をかき分けて杖をついた老人が前へ出た。
「村長はわしです、ファング様。こんなところで立ち話も何です。どうぞこちらへ」
そう言うと老人は、小さな村の中でも比較的大きな村長宅にファングとバルドを連れて行った。
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