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第7話
家の前には辺鄙な田舎者ですら知る偉大な騎士長・ファングを一目見ようと、そしてオークであるバルドに危害を加えるつもりではないかと心配したみんなも集まっていた。
「先ほどは村の者が失礼を。まあ、わしも村長とはいえただ歳を取ったからというだけですがねぇ。それで……こんな何もない辺境の村にあのファング様が出向いていらっしゃるとは、いったい何用ですかな」
「大したことはない、いつも通りの討伐依頼だ。この辺りは平和であったのに、先代が滅ぼしたはずのオーク族や、近頃怪しい動きをしているゴブリン族を見かけたと。なかなかの額の賞金をかけられているから、大事な戦力を失わぬようあえて俺一人で来た。……オーク族の方は、どう考えてもあいつだがな」
ファングがまるで召使いのように距離を保って慎ましやかに立っているバルドを、鬼の形相で見やる。
「奴は何でも村外れの洞窟に巣を作り、村人たちの前にたびたび姿を現しているというではないか。何故オークを野放しにしている?」
「……それは、大きな誤解というものです。もちろん、ファング様のお気持ちはよくわかります。実際にわしらも最初にバルドを見た時は、それはそれは驚いたものです。しかし……村の様子を見ていただいてもわかる通り、彼は心優しいオークなのですよ」
「フンッ! あんな醜い豚のような能無しに心などあるものか。全て偽善ではないのか? そうして優しい振りをしながら、どんな悪事をしようか企んでいるに違いない」
「それが通じるのです。彼だけは違う。老人の勘というやつですがね」
「いつか寝首をかかれぬよう気を付けることだな」
「ええ、そうしますよ。ですからひとまずあのオーク、バルドを信じられるまで見張ってみてはどうでしょう。確かに彼はオークですが……ゴブリンの問題というのは、わしらも聞いたことがありません。その調査も兼ねてはいかがです」
村長は年の功だろうか、騎士長の前でも微動だにせず、穏やかな話し口調だった。
人生経験の豊富な老人に諭されては、あのファングも思うところはあるのか。
出されたビールを一気に飲み干すと、とてもではないが庶民の酒の割に合わない金貨を数枚置いて席を立った。
「ゴブリンの情報を得るためにも、俺はしばし村の厄介になるつもりだ。釣りは要らん。このまま懐に入れても構わぬし、取っておいて皆で分かち合っても良い。今から俺は監視目的であれと行動を共にするが……そうだな……あいつが死んだら村の者が困らぬよう、今度は我が家の財宝でも恵んでやる」
長生きをしていてもあまり見たことがないのか、とても貴重で高価な通貨を気前良く渡すファングに、村長さえも目を見開いて、そして眉を八の字に垂らして去るファングの背を見つめていた。
村長のことだから独り占めすることはないにせよ、突然あんなものを渡されたら、そりゃあ戸惑う。
ファングの鎧や剣は恐らくもっと貴重な鉱物、プラチナやオリハルコンで作られているのだろうから、彼の常識でははした金なのかもしれないが……。
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