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第8話

 ファングは突っ立ったまま話を聞いていたバルドを見上げ、悪態をつく。 「おい、そこのウスノロオーク。ぼさっとしていないで俺と来い。軽く村を回ってから、普段暮らしている巣に案内するんだ。いい加減にお前の化けの皮を剥いでやる」  騎士様は戦い以外では慈悲深く高潔なる存在なのだろうと思っていただけに、ファングは口も態度も悪くて辟易する。 「ま、待って! ウスノロじゃない、バルドにも名前、ある。バルドゥイン……みんなバルドって呼んでる」 「はぁ? そんなもの知るか。オークはオークだろうが」 「バルドは、オークだけど、奴隷じゃない。に、人間族も、奴隷は名前がないようなものだって聞いた。ひどい扱いを受けたりもしてるって。そ、そんなのは、おかしいと……思う」  痛いところを突かれた、というようにファングが舌打ちした。 「……バルドゥイン……か。ファング・クヴェレ・ジークフリートだ。まあ怪物にはとっくに知れ渡っている名だろうがな」  と、不貞腐れながらもフルネームで自己紹介をしてくれた。  バルドが村を歩く中、村民は気さくに話しかけてくれる。  大工は力仕事、漁師からは漁の手伝いを、薬草師からはいつも足りないぶんを届けてくれる礼を言われ。  鍛冶師には、火力を上げようとして一息で全ての火を吹き消してしまったことを笑いながら叱られ。  酒場では料理のアドバイスや、酔っ払いからバルドの武勇伝という名のドジっぷりをからかわれたり。  宿屋では、人間族の文字の読み書きができるよう、帳簿の事務作業や寝る間も惜しんで個人的に猛勉強したことを褒められ。  他の若い男女や老人たちも、日課なので「今日も元気か」と向こうから挨拶をしてくれる。  何よりも、純真な子供たちが何人も引っついてくるバルドへの愛情は、何ものにも変えがたいものだった。  高い高いをしてやると、まるで空を飛んでいるみたいだと、キャッキャ笑ってくれるのがとても幸せな気持ちになる。 「はぁ……まさか本当に村人の仕事を手伝っていただけとは……。村人からの信頼が厚いのも……事実のようだし……。止められなければとっくに首を刎ねていたところなのに」 「うう、怖い。この村の人間、好き。傷付けたりなんて、絶対しない」 「だいたいっ……オークのくせに何だその弱々しさは。何故こんなオークが村の中を自由に動けて、愛想良くされて……。騎士たるこの俺がまるで敵視されるような態度をとられねばならんとは世も末だ!」  言動からもわかる通り、プライドが高いであろうファングだ、扱いの差にギリギリ歯を食い締めて、はらわたが煮えくりかえりそうになっていることだろう。

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