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第9話

 バルドのことはさておき、村長によると、怪物など滅多に出ないゆえにここ数十年の間でも騎士が訪問することさえ非常に珍しいらしく。  村の人間に全く罪はなくとも、自然とバルドに肩入れしている以上、ファングのことを常に警戒するような目つきだ。 「……ただあのクソガキだけは許せん、一発ブン殴る。俺にあんな屈辱を与えおって……」 「だ、駄目だよっ、殴るならバルドに……ぶふぉっ!?」  間髪入れず、ファングの渾身の力が込められた拳が身長差で股間にクリーンヒットした。  表皮がどんなに強靭であろうが、それが怪物だろうが、生きとし生けるもの全てにどこかしらの弱点はあるもので……痛いものは痛い。  人間ほどの悶絶具合ではなくとも、しばらく股を押さえて歩けなくなった。 「当たり前だろうが。どれだけ腹が立っても幼子に手を上げる訳がない。だが騎士として怪物は別だ。今のが剣ではないだけマシと思え」 「う、うぅ……はい……」  同じ人間、特に女子供にはそれなりの真心はあるのだろうが、怪物相手となると会話ができる相手でも差別感情があるのか……。  それは職業柄か、騎士を継ぐ者としてそう言われ育ったのか。  バルドも長い間、騎士は怪物を狩る恐ろしいものだとこの目で見て、聞いて生きてきたから、そう簡単には心を開いてもらえないのはわかっている。  特に騎士長ともなれば……下手に特定の怪物に情けをかけては、騎士団の士気にも信頼にも関わる。  村ではバルドでも人間族と仲良く助け合って共存しているつもりなのに……そうなかなか上手くいかないのが世の常というものだ。

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