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第10話
バルドが長らく生活の拠点にしている洞窟にやって来た。
「……巣、というか……ほとんど家だな、これは……」
松明を持って洞窟内を見渡したファングは、警戒心すら忘れ、「オークの棲み処」にしては想像を超えた場所に口が開きっぱなしになっている。
バルドは金品の類いを持たないし持てないため、手伝いの対価として、大工が試行錯誤の上作ってくれたオークでも壊れない丈夫な椅子を置き、女性たちが総出で縫ってくれた絨毯を敷いている。
裁縫も簡単なものは習って、布製の服だって人間用のそれを継ぎはぎして広げ、オークが着脱できるくらいに大きなサイズを数着作った。
それを水浴びついでに川で洗っては干し、いつでも清潔にしている。
ベッドはないので絨毯の上に横になり、布をかけて寝ているが、よく見えるところに摘んだ花を飾って、自らが癒される空間を作っている。
夜はランタンを用いて、借りた本を読んで、生活する上で必須の人間の知識を吸収することもあるし、不用品の鍋や食器を貰って火を起こし、きちんと料理もする。
我ながら実に奇妙だが、人間族とほとんど変わらないような暮らしをしていると思う。
「バルドの家、王都のお客さん来たの、初めて。騎士様、歓迎、する」
「いや長居をするつもりはないから何もしなくて……」
「お客さん来たら、飲み物と食べ物、出す。人間族、そうすると喜ぶから。バルドはそうしたい。みんなが喜んでくれると、バルドも嬉しい」
あんまりバルドがウキウキとしていたせいか、松明を壁にかけ、試しにだろうかオーク用の椅子に踏ん反り返ってみるファング。
こう見ると、場所が場所なら貴族だとか王子だとかが座っているようにしか……やはり何とも言えぬ気品が漂っている。
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