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第11話
律儀にテーブルクロスに覆われた机の上に、バルドはハチミツからできた濃厚かつ上品な味わいの甘い酒であるミードと、蒸留酒で漬けたさくらんぼが山盛りの、極上チョコレートケーキを出した。
黒い森のさくらんぼケーキと呼ばれて、庶民の間でも親しまれている。
「こ、こ、これはっ……ミードとシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテぇ……」
思いもよらぬがファングの好物だったのか、出されるや否や子供のように飛びつき生唾を飲む。
牛はこの地で飼うには餌代も高いので、ヤギの乳でできたバターや生クリームだが、比較的あっさりしていて癖がない。
毎朝鶏が産む卵黄と、果実から作ったジャム。
分けてもらった砂糖や薄力粉などを混ぜ、時間をかけて真心込めて丁寧に作る。
どうしても指の太さ等のせいで手先は不器用だったし、こんな洞窟内には釜戸もないので村で使わせてもらっていたが、みんなに振る舞えるようにと、最初は基礎としてパンから必死に練習した。
今ではオーク特有の人間よりも遥かに温度が高く、大きな手のひらで、生地をこねるのは大得意だ。木の実を入れればまた違う味にもなる。
王都には有名なお菓子屋さんがあるようで、できることなら本格的に習ってみたいと想像したこともある。
当然、オークが街に繰り出したりなんてしたら、王都中の騎士や衛兵に囲まれてしまうのはわかりきっているから、酒場の女主人からレシピだけを教わった、あくまで我流だ。
「お……お前が作ったのか? 村人ではなく?」
「も、もちろん。材料分けてもらったりはしたけど、作ったのはバルド」
「……う、うまそ……。って! こいつ、毒でも入っていないだろうな!? お前が先に食って証明しろ!」
「わ、わかった……」
ここ数年の人間との生活で、普通は怪物の言うことなど信じてもらえないのが当たり前だと忘れかけていた。
そっと一切れ……と言ってもオークの口には小さすぎるので、ほぼ半分ほどをナイフで切って、手掴みでわずかに噛んで飲み込むように喉に流し込む。
「……行儀が悪い奴だな。フォークやスプーンは使えないのか……オークに行儀も何もないが」
「ご、ごめんなさい。誰も見ていないところでは、め、面倒臭くて……」
うっかりうっかり、というように後頭部を掻いてみせるが、食事のマナーにもうるさそうなファングだ。
眉をひそめて睨み付け、バルドの体調の変化を思案する。
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