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第12話
「ふむ……今のところ何ともないようだが……身体が大きいせいで毒の回りが遅いのか……そもそも怪物に人間用の毒が効くのか」
「ど、毒なんてそんな物騒な……。これっ、いつも酒場にも出してる。大人も子供たちもみんな食べてる。特に騎士様には、失礼なことはしないっ」
待てども待てども健康そのもののバルドに、彼の言葉が嘘偽りないものと思いつつあるのか。
ファングの視線の矛先がだんだんとバルドよりケーキに向き始め、やけに力強い目つきで見つめていて離そうとしない。
こんなに隙を見せたら、悪い怪物ならばすぐさま攻撃をしかけるだろうに。
「……た、食べて、いいんだよ? 歓迎の気持ち、だから」
「わかっている……わかっているが……ここで怪物なんかの手料理を食してしまったら……負けな気がする……」
勝ちとか負けとか、何の戦いなのかよくわからない。
けれど、そういえばファングははるばる遠征して来たのだ、キュルキュルお腹は鳴っていて。
「じ、じゃあ、もったいないから……残りはバルドが」
「食わないとも言っていないだろうが! 寄越せ!」
正直なところはよっぽど食べたかったのか、言い終わる前にふんだくられた。
バルドと違って優雅にナイフとフォークを使って口に運ぶ様は、食事をしているだけなのにとても美しい。
「……何だこれは……スポンジも生クリームもふわふわで癖がなくて、このクッキー生地もサクサクだ……そこにさくらんぼが甘酸っぱくてこんなのいくらでも食える! ミードと合って最高だ! くうぅ! うまぁっ! んふふっ」
ファングが少年時代はこうだったのだろうか、というくらい無邪気に口元を緩ませて笑っている。どうも甘いものには目がないみたいだ。
さっきまで悪態をついていたとは思えない、初めて見る騎士の意外な一面に、バルドも微笑んだ。
「もっとないのか!? お前がたくさん食うせいで腹ごしらえにならない!」
「えっ……い、今からまた作るなら、材料も少ないし……時間が必要に、なるけど……。カカオも高いし……次に行商人が来るのを待つから、月に一回、とか……」
「なんだと……それなら王都の料理人に頼んでカカオもたんまり持って来るんだった」
「あっ、でも、豆のスープなら夜には作る予定だよ」
「おおそうか! それは楽し、み……ゲフゲフンッ! ま、まあまあ……じゃないか? オークごときが自分一人で作ったにしては……悪くはない」
ファングは顔を赤くしてわざとらしく咳払いしたが、誤魔化すにはちょっと無理がある。
通貨はたんまり持っているし、村に行けばいくらでも食事にはありつけるのに。
これではまるでバルドの手料理を食べたいと言っているようなものだ。
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