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第14話
それからファングは人間には広めの洞窟内を探り、様々なものを興味津々に観察していた。
どこかに武器の類いを隠し持っていないかという意味合いもあったかもしれないが、オークが人間の真似事をしているのは相当に珍しいようだ。
やがて陽も暮れ、バルドは夕食の準備を始める。
野菜を切るためのナイフを出した時だけ、ファングは条件反射か立てかけていた自らの剣に手を添えたが、それ以外は黙って調理する様を眺めていた。
「くそっ……あれもこれもうまい……何より野菜が新鮮だ……王都では全て物価が高いだけの粗悪品もあるからな。……お前の料理の腕は認めざるを得ないか……」
「よ、良かったぁ。いっぱいあるから、たくさんどうぞ」
ファングがライ麦パンを頬張り、レンズ豆とタマネギ、キャベツやニンジンをじっくりコトコト煮込んだスープに夢中になっている。
本来、こんなもの騎士様に出すわけにはいかないほどの田舎飯なのに……しかしそれがたまには良いのだろうか、おかわりまでして食べてくれているとは、何事だろう。
いつもは料理人と使用人が忙しなく、ファングもゆっくりと料理や休息を味わっている暇がないまま怪物退治に直行するということもあるらしく、そう考えればかなり……バルドの家では開放的にすら見える。
バルドはこれも何かの縁だと、本棚から取り出してきたある本を読んでいた。
ファングや現国王の先祖、何代も昔の伝説の騎士たちの冒険譚を記したものだ。
脚色されているのではとさえ思えるようなとんでもない古の怪物すらも出てきたが、ファングがあれだけ強いならば、その先祖ともあろうお方たちはこれもあっさり倒してしまったのだろうな、という説得力があった。
「……英雄フリード・クヴェレ・ジークフリート……」
ファングが複雑な表情で吐露する。
「フリードは……先代であり、父の名だ。父上は凶暴なオーク族が一方的に襲ってきたと言っていたが……向こうからすれば父上への報復……だったのだろうか」
「そう……なるのかな。バルドのお父さん、オークの王様っていうか……とにかく、怖かったから」
「種族を超えた正義のぶつかり合いというやつか」
「そんなご大層なものじゃないと、思うけど……」
怪物は人間族を襲うのが生きる手段でも種族を守るためでもあり、人間族もまた、平和に生きるため、身勝手に怪物の餌食にされた者を弔うため、怪物と戦う定めにある。
この世は弱肉強食だ。
正義とかうんぬんとか、そんなもの関係なく、強い方が生き残る。
ただ、それだけだ……。
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