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第16話
この場所での生活はひどく寂しかった。考えてもどうしようもないことばかり悩んで、あまり寝付けない日も多かった。
理解し合える誰かと話がしたかった。例えばこうして、ファングのように……食事を囲んで和気あいあいとしたかった。
「俺も、もう父上と母上を亡くしているからその気持ちは……ほんの少しだけだが、わかる気も……する。使用人たちはいるが……血の繋がりには勝てない。もっと騎士として腕を上げていく姿を見てほしかった。親孝行できる者が羨ましかった」
自分だけが被害者面をしていた気がしていたが、ファングも……孤独だったんだ。
先代フリードの子息として、騎士長として、特別扱いをされるのは彼からすれば距離を感じて寂しかったんだ。対等に扱ってほしかったんだ。
ともすれば七光などと悪口を言われたことだってあったかもしれない。
「……バルドなんかのことまで考えてくれるなんて、ファングは……優しいね。ファングのお父さんとお母さんも、きっと天国で見守ってる……。ありがとう……」
「……俺は腐っても騎士だ。民を守り気遣うのは当たり前だろう」
感謝されることが至極当然なのだと思いきや、バルドに言われたからだろうか。
ファングはちょっとだけ嬉しそうにぷいっと顔を背けた。
と、いうか……バルドを含めて、「民」と言ったのは聞き間違いだろうか? 狩る対象の怪物ではなく? バルドも、守るべき存在と認知してくれた……?
気高く、強く、冷静なだけじゃない。
庶民にも寄り添えるところだって、ユーモラスな部分だってあるから、みんなに尊敬されるのだろうな。愛されるのだろうな。
なんだかんだ言って、「飯を残すのは主義に反する」とか理屈っぽくオークが作った料理なんかも完食してくれているし。
疎まれ続けて生きてきた期間の方が長いバルドは、相容れない騎士である彼に、奇妙にも憧れにも似た感情を抱いた。
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