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第18話

「ろ、ローゲ!? どうして、ここに」 「詳しい理由は後にするが……ゴブリン族が人間に狙われている」 「それって、もしかして……王国騎士のこと?」 「ああそうだっ。だから助けてくれ……昔のよしみだろう」  昔のよしみ。  恩人のそんな甘い言葉にバルドはとてもではないが力になれることがあるならと、迎え入れた。 「で、でも……ゴブリン……そう、たぶんローゲのことだと思うけど……王都では賞金首にまでなってるみたいだよ……」 「それは大きな誤解なんだ。私は何もしていない。ただ……うっかり人間族に姿を見られてしまってな。もちろん、私は逃げるのに精一杯だったが、その人間が恐怖のあまり討伐依頼を出したのだろうと思う……」 「そ、そんなことって……い、一方的すぎるよ」 「……それが人間族というものだ。恐怖と不安に縛られた心では、どんな真実も見えなくなってしまうし、見ようとすらしない」  バルドですらわかるほど疲れ切ったローゲはその場にへなへなと腰を下ろすと、バルドが作り置きをしておいた食事を何度も礼を言いながら嚥下していった。  そうして、少し精神的・肉体的な力が戻ってきたのであろう彼は、バルドですら聞いたことがなかった昔話をぽつぽつと話し始めた。 「私はな……昔、あの英雄とか呼ばれているフリード・クヴェレ・ジークフリートに妻と子供たちを殺されたんだ……。手足はバラバラにされて腹を裂かれて臓物も飛び出ていて……あいつの殺し方はそれはもう酷いものだった。だからバルド……お前の境遇を聞いた時、異種族だろうが自分と重ねてしまったんだ。息子も生きていたら今のお前くらいの年代だったろう……可哀想に……。私たちも生きているだけなのに、なぜ人間族は放っておいてくれないのだろうな」  ローゲにそんな過去があったなんて……。  それはあまりにも凄惨で、ローゲがどうして異種族であるバルドを受け入れてくれたのか、ようやく腑に落ちた。  ローゲも夫で、子の父親で、同族の長を務めていた。だからバルドを強く育てることで、ローゲも一種の満足感を得ていたのではないだろうか。  途中で離れ離れの生活になってしまったけれど、初めからそれを知っていたら、バルドはもしかしたらローゲたちを守るために留まっていたかもしれない。  けれど、バルドが出て行く旨を伝えた時、ローゲが無理に引き留めることもなく送り出してくれたのは、そうしてまたバルドが殺されてしまうような悲劇があれば、同じ過ちを繰り返す自分を悔やみ、さらに人間族を憎むだけ。  バルドももうローゲに危ない橋を渡ってほしくないばかりに、重い口を開く。 「……ローゲ……実は……。ゴブリンを探してはるばる王都からやってきた騎士がいる。バルドもオークだからって殺されかけた」 「なんだとっ!? 無事か? 怪我などしていないか」 「う、うん。最初はすごく怖い人だと思ったけど、話せば意外とわかる人で……」 「どんな人物だ」  今まで聴いたことのない鬼気迫った声色で問い詰められ、バルドは悩んだ末に返答する他なかった。 「ふ、ファング・クヴェレ・ジークフリート……フリードの息子だよ」 「…………あの竜殺しのファングがこの地にいる、だと……」  地を這うような声音で呟くと、ローゲは洞窟を飛び出して行った。  その目には、憎悪の焔が宿っているように見えたのは、見間違いだろうか。 「ローゲ! どうか無茶な真似はしないで! ローゲは、バルドのお父さん同然なんだから!」 「私なら平気だ! やることがある!」

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