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第20話
ファングなら大丈夫。
つらいけれど、すぐにローゲの首を持って帰ってくるだろうな、なんて思っていたのに、昨夜のローゲの態度を見るに、バルドの不安と焦燥感は募るばかりだった。
村でみんなに励まされながら待っていても、胸騒ぎは収まらず、ファングが向かったとされる開けた草原をその大きな歩幅で全力失踪した。
ファングはいつどこから敵が来ても良いように既に剣を抜いて、四方八方に視線をやっているが、バルドに気付くと、あからさまに眉間に皺を寄せる。
「……何をしに来た」
「ご、ごめんなさい。バルドなんか役立たずって、ファングに嫌われてるのはわかってる、でも……何もせずにいるのは耐えられなくて」
「……これから怪物退治をしようと言うのに……俺の邪魔をするな! お前から叩き斬られたいか!」
「そうじゃないよ、ファング……」
殺気立っているファングの前では、言葉の説得ではきっと通じない。だが──。
ズシン、ズシン。
何かとてつもなく強大な足音のような地鳴りが、どんどんこちらに近づいてくる。それにはファングも息を呑み、本格的に戦闘に備えて剣を握る手に力を込めた。
目の前の山を超え、その怪物は人智を超えた巨大すぎる姿を現した。
オークやドラゴンよりもさらなる巨体と岩のように硬い皮膚を持ち、昨今の怪物討伐記録にも載っていない……恐らくはフリードの時代でも邂逅した者がいない。
一つ目のゴリアテ……異種族の中でもひときわ恐れられる大巨人族の生き残りが、おぞましい瞳をギョロギョロと動かしていた。
「な……ぁ……ただのゴブリン退治の、はずじゃ……」
かのファングでさえ、ゴリアテには圧倒されて大きく目を見開いては剣を持つ手がかすかに震えている。
「まさか……だ、騙された……? ローゲ……ゴリアテを起こした……?」
ローゲのことだから一時共闘するにしても、ここまで並外れた怪物を起こすなんて。
フリード家への報復だけではなく、もはや人間族全てを滅さん勢いだ。
英雄譚の中で、現国王陛下のご先祖様であられるヴォータン様という騎士が、ゴリアテを封じ込めたという記載があったことを思い出す。
封じたということは、そんなにも伝説的な騎士でさえ、倒せなかった。
倒す術がわからず、まだ古代魔法が存在したという時代に、それを用いてどうにか後世に希望を託して眠らせることしかできなかったという、あまりに絶望的な怪物。
ゴリアテはどこか山の中か地の底だかで封印されていたのか、古びた鎖を手足に巻き付けられている。
しかし、悠久の時間から目覚めたのは事実のようで、ただあくびをするかのように枷を引きちぎり、鼓膜を破らんばかりに咆哮した。
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