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第21話
「ファング……ごめんなさい……ゴブリンが悪いことしてるのも、ゴリアテが起きたのも、全部バルドのせい、かもしれないっ……」
「何を言ってる! そんなことどうでもいい! 今はあいつに集中しなくては!」
ファングはさすが騎士だ。
バルドへ不機嫌を露わにしていたこともとっくのとうに切り替え、目の前のゴリアテを倒すことだけを脳内でいっぱいにした。
「バルド! 力を貸せ!」
「えっ……でも、バルドは戦えない」
「いいから! 今だけ言うことを聞け! あいつを野放しにしていたら、他の村や王都にまで被害が及ぶ可能性が高い! あの歩幅じゃ、王都に応援を頼んでいる時間もないっ! ここで何としても足止めしてあいつを倒すしか方法がない!」
「わ、わ、わかった。どうしたらいい」
「くそ……正直俺にもわからない……巨人族と言えどあんなとんでもない奴とどうやって戦えば……」
あのファングでさえ悩むのも当然だ。
あんな怪物、バルドですら実際には見たことがない。
無論、英雄譚の記述は昔すぎて本当かどうかもわからないし、ヴォータン様以外戦ったことがない以上、あまりにも情報量が少なすぎる。
「そうだ……古の怪物について語った、吟遊詩人の歌がある……昔から子守唄のように聴いていた……。大昔にゴリアテを封印したヴォータン様の伝承が本当なら……今なら勝てるかもしれない!」
この圧倒的劣勢にも、勝機を見い出したファング。
「バルド! お前は奴の足元を狙え!」
「ぶ、武器なんてないよっ」
「あるだろうが、その腕っぷしが! とにかく拳で殴れ! 効いてる感じがしなくても殴り続けろ! いいか、これはお前の嫌いな暴力じゃない……お前の手に、皆を、国を救えるかどうかがかかってるんだ!」
「っ!」
暴力ではない……。皆を、国を守る……。
ファングは、まるでバルドの性格を熟知しているかのような言葉選びで鼓舞した。
「バルドの力で……みんなを守れる……」
そうだ、最初こそ自らを守るためにと鍛練してきたけれど、もう立派な村の“用心棒”ではないか。
ならこの力は、今この瞬間のためにある。村には女子供もたくさんいる。そして、バルドを支えてくれた男衆。
みんなから夫や父親を、妻や母を、そして何より子を──どれか一つでも奪わせてはいけない。
守るべき存在が現在のバルドには多すぎるほど、増えてしまった。
後戻りができないほどに、人間と関わってしまった。
バルドはもう、野生のオークとして生きられないほど人の感情を知ってしまった。
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