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第23話
「クソッ……まだ倒れんか……かくなる上は……バルド受け取れ! それで足首の腱を切って転ばせろ!」
ファングがあろうことか愛剣のノートゥングを手放した。
けれど生きることを諦めてはいない、まっすぐな眼差し。
ファングから託された、打開策。絶対に無駄にする訳にはいかない。
手を伸ばしてなんとかキャッチすると、柄の部分を握り締める。
武器なんて持ったのは初めての経験で、恐怖のあまり身が竦んでしまう。木の棒すら振り回したことがないが、それでも。
上でファングが野盗や小型の怪物などの予備かつ緊急用の短剣で格闘しているのを見上げたら、どうにかするしかなかった。
「どこ斬ったら、いいの……ううっ、わかんないけど、ファングが……」
と、ファングが遂に落下しそうになったかと思うと、ゴリアテがその視界に入ったファングを傷付けられていない片手で掴んだ。
巨人族に対話したり思考する知恵はない、からこそ。
「ぐぎゃああああァアアアアアッ!!」
軽く握り締められただけでも、人間には耐えがたい握力だ。
それだけで骨のどこかが折れているかもしれない。
「ファングっ!!」
「お、れは……まだいける……死なないからっ、早く……!」
そうは言うが、ファングの悲痛な絶叫は止まらない。
遠い昔の出来事が脳裏に浮かぶ。父が人間を無惨に握り潰していたことを。
ゴリアテほどの巨体なら、もっと……あのファングが……いとも簡単に……。
もうバルドは何もできない子供じゃない。見ているだけで誰も救えないなんてまっぴらだ。
「ファングを離せ! 離せーーっ!!」
無我夢中で足首を狙い剣を振り続けていると、ウィークポイントに当たったのか、ゴリアテの重心が明らかにぶれた。
一瞬力が抜けてようやくその手から解放されるはずが、ファングはゴリアテが仰向けに倒れるのを予期して下手に地に降りることはせず、むしろその手に掴まって着地できる距離まで待っていた。
大きすぎる物体が広い草原に倒れ込み、大量の砂埃が舞った。
それでもまだまだ、ゴリアテはなんとか体勢を立て直そうと苦しそうにもがいている。
「はぁ……よくやった、バルド……助かった……」
「でも、まだ」
「ああ……この俺がみすみす逃すか。これだけのデカブツ、さすがの俺でも空は飛べないからな。こうして……ひっくり返るのを待っていたんだ」
ようやくそのどう見ても弱点である大目玉をバルドから返してもらった剣で刺し貫くのと思いきや、ファングは辺りに転がる石ころを見定め、その中でもギラリと尖ったものを手にする。
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