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第25話

 何が起こった?  わからない。頭がくらくらする。胃袋から酸っぱいものがせり上がってきそうな感覚がする。  ふらりと力が抜けて、膝から崩れ落ちる。 「ファング……」  おすおずと振り返ると、そこにはファングが腰を抜かして驚愕の(まなこ)でバルドの凶行を見つめていた。  生きている……ああ大丈夫、ちゃんと生きている。ファングを守れた。でも。 「……う、うぅっ……ぁ……」  殺した。  騙されていたとは言え、長年世話になった恩師とも呼べる存在を。  絶対に父のようになるものかと思っていたのに、こんな風に、残虐に命を奪った。  ようやく現実が追いついてきたのか、ガタガタ全身が震える。自然と涙が滝のように流れだす。  鼓動が速く、肩で息をするも、過呼吸になって止まらない。 「あぁぁぁぁっ……! あぁっ、ファング……どう、しよう……! バルド、殺した……バルド、一番悪いことしたっ……!」 「バルド……落ち着けっ……! お前がいなかったら、俺が殺されていたかもしれない」 「それでもやっちゃいけないことはいけなかったんだ!!」  いつもうじうじとしていたバルドが、この時ばかりは大声で叫ぶ。  そうせざるを得なかった。当たり散らさなければおかしくなりそうだった。 「っ……大丈夫、こいつは元々賞金首だったんだ。俺が倒したと言えば、皆は納得する。戦利品は……ないが……とにかく大丈夫だ」 「いやだ……やだ、やだやだやだっ……こんなのバルドじゃない……こんなバルド大嫌いだっ! 生きてる資格ないっ! や、やっぱりオークは……こんなにも生き物を簡単に殺せる怪物……うぅっ、うわあああああああああ!!」  錯乱するバルドはその場で暴走し、倒したばかりの巨人のようになりふり構わず叫び尽くし、頭を地面にガンガンと打ち付ける。  頭蓋骨が割れて死ねたらいいとさえ思ったのに、屈強な身体はそう簡単に傷さえ付きやしない。  やがて観念したバルドは、考えうる最悪の末路に至った。 「ファング……バルドを……殺して……」 「っ!?」  ファングの剣でなら、オークの首を刎ねて即死させるくらい至極簡単だ。  いいや、即死なんて生ぬるい。  無慈悲な拷問をした末にむごい殺し方をして、死体を埋葬することすらせず、カラスの餌にしたっていい。

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