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第26話

「バルドが死んだら、悪いオーク、もう一匹もいなくなる……。みんな怯えて過ごさなくて良くなる……ファングの手柄にもなる……。バルド、もう隠れながら生きるの、つらい……。だからお願い……殺して……」 「そ、そんな要求……呑めるはずない……」  バルドを見た途端に斬りかかってきたファングの言うこととは思えない。  震える声で言いながらも、バルドのオークとしての力に恐怖は感じていない。  それより、バルドが死を望むほどに自分を追い込んだのを、なんたることかと頭を抱えている。 「じゃあ、せめて捕まえて……王都に連れ帰って……。そこで公開処刑を受けるから……」 「……バルドが俺を守ってくれたように、俺はバルドを殺させない。待ってくれ……なんとか……策を練らねば……」  本気でバルドを生かそうと悩み、憐れんでくれている。  きっともう今後の世代ですら現れないのではないか、というくらい最高の騎士様であるファング。  バルドのことも「民」と人間と同等の扱いをしてくれただけで嬉しかった。  もうそれだけで充分すぎるほどで、思い残すことはない。 「もう、いいよ……疲れちゃったんだ……」 「ならどうして泣くんだ? 心の底ではそんなこと望んでないだろう? 悲しいんだろう? 生きてもっともっと人生を謳歌したいだろう? お前は殺しなど望まない、世界一優しいオークなのは俺がよく知っている……なのにっ」  あのファングが、立ち上がってバルドの身体を軽く拳で叩いては涙ぐむ。  子供が駄々をこねるように、言葉を詰まらせながら。どうして、何故、そんなことを。ふざけるなと連呼する。  気高いファングをも泣かせてしまうなんて、やっぱり。 「悪いオークは……死ぬべきなんだよ……。バルドのお父さんみたいに……」 「……バルド。俺を見ろ」  言われるがまま見下ろすと、バルドの硬い岩のような唇に、柔らかな感触が伝う。  ファングが目一杯背伸びをして口を合わせているのだとわかった。 「んんっ……ちゅ……ぷはぁっ。……悪いオークに、口付けをする騎士がいるか?」 「……ファング」 「帰るんだ。王都ではなく……お前の家に」

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