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第27話
身体の汚れを水辺で洗い流して、家に戻ってからようやくバルドは自我を取り戻した。
それも、ずっと付き添ってくれていたファングのおかげだ。一人ではまた自棄になって逃げ出していたかもしれない。
鎧やその下の服を脱いで上半身裸になったファングは、念のために包帯を巻いている。
心配で心配で、ぐるぐる巻きにしたところ、「俺をミイラにする気か」と言われ、ファング自ら器用に手と口を使い固定したのであった。
あんな大剣を振れるくらいなのだからそれはもう過酷な訓練に励んだのだろうが、負けないくらいのスピードもあるし、着痩せするのか思ったよりがっしりとした肉体美だ。
さすがに今さらどんな回復薬を使っても治癒しないくらいの古傷たちは、過去の数えきれない戦を物語っていた。
「ふぅ……回復薬が余っていて良かった。薬草師もだが、そもそもの薬草をたんまり集めておいてくれたお前の働きが功を成したな」
「い、いや、元は村の誰かに何かあった時用の治療に……。ファングの役に立てて良かった」
「ああ。本当に。……いてて」
「ま、まだ無理しちゃ駄目」
「いいや、バルドのおかげでだいぶ……楽になった。とりあえず倒せたから良かったものの、さすがに今回ばかりはヒヤヒヤした……。俺としたことが、自分の力を過信しすぎていた」
自責するように首を横に振るファングに、バルドはいても経ってもいられず反論した。
「それは違う! 元凶はバルドなんだ……。前にも話した、ローゲってゴブリン……バルドが大人になるまで育ててくれた……第二のお父さんみたいな存在で。だから、ついファングのことも話しちゃって……ファングが狙われることに……」
「……全ては片付いたことなのだから、過去を悔やんでもどうにもなるまい。奴も正直者のバルドなら俺のことを包み隠さず話してしまうとわかっていて、利用したのだろう。単なる不運だ。お前は悪くない」
また怒りを買う、恨まれても仕方ないと思っていたのに、ファングは宥めてくれた。
「ともかく……傷が完全に治るまではまたしばし世話になる」
「そっか。そうしたら……王都に、戻るんだよね。お別れ……だね」
「…………」
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