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第30話
「よ……良かったね。そんなに素敵な相手なら、ファングも相手もきっと幸せになれるよ」
バルドは無理して笑った。いつも以上にいびつで醜悪な顔だったと思う。
「っ……お前という奴はあぁぁ……! 本っ気で鈍いな! 俺が好いているのは、バルド……お、お前のことだ!!」
ファングは顔から火でも出そうなくらいに紅潮させ、殴りかからんばかりに怒りながらも愛の告白をした。
バルドはしばし、何を言われたか脳の処理が追いつかなかった。
「……へ? えっ? な、なんで? バルドはオーク……なんだよっ? 騎士様、怪物、みんな嫌いなんじゃ……」
「ああ! そう思っていたさ! お前と出会うまでは……。ば、バルドは……俺のことをどう思っている? よ、よくよく考えてみれば初めてしたのだが……口付けされて嫌だったか? それとも、騎士自体が憎いか?」
「ううんっ……。むしろ……ファングがいない日常は……もう考えられない。寂しいよっ……」
「ならっ……それを……人間の言葉では、愛している、と言うんだ」
「愛……?」
本でしか読んだことがない表現だ。
感情を持たないとされる種族は、それこそ敵と判断したものを攻撃するか、子孫を残すことしか遺伝子に組み込まれていないから。
家族や同胞に抱くものとは似て非なるもので。
傍らで見つめていたい、守りたい、悲しませたくない、笑顔にさせたい。
健やかなる時も病める時も、ずっとずっと一緒にいたい。
相手のことを考えるだけで様々な感情がないまぜになって、時に一挙手一投足に喜んだり、怒ったり、悲しんだり、やきもちを妬いたり……情緒不安定にさえなってしまう。
憧れだと思っていたけれど、そんな複雑なこの感情が、もしそれならば。
「そっか……この気持ち、そうなんだ……。ファング……バルドもファングを、愛してる」
「……ああ」
そうして微笑むファングは、騎士ではなくファング個人としての穏やかな眼差しでバルドを見つめた。
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