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第36話

 ゴリアテとの壮絶な戦いは、その山ほどの大きさから王都からでも一部始終は見えていたようだ。無論、ファングがトドメをさしたところも。  一時であったが世話になった村に別れと感謝を告げ、ようやく王都に凱旋したファングだったが、周りは騒然としていた。  それもそのはず、愛馬に乗って民衆に手を振るファングが、隣に「捕縛した」ていで家畜のようにロープで両腕を縛ったバルドを連れ歩いていたからである。 「きゃあっ! ファング様ーっ!」 「うおおっ、あんなデッカいオークまで捕まえてるぞ! さすがファング様」  何の事情も知らない、ましてやオークなど……出会った頃のファングのように、風当たりの強い民の台詞はもっともだ。  城下町には、教皇や騎士団員、街中の傭兵たち、そして大罪人の首を刎ねてきた巨漢の処刑人すらも集まる中、なんと国王自ら、ローゲという賞金首とゴリアテなどという異形の怪物を倒した二人を見定めにやって来ていた。 「おおお……オークまで引っ捕えるとはなんと素晴らしい……。これで穢らわしい怪物がまた一匹この世から消える」  おおよそ教皇から漏れたとは思えない口ぶり。  だが、さすがのファングも国王を前にして、背を正して深くこの国ならではの一礼をする。バルドはその猿真似しかできなかった。 「フリード・クヴェレ・ジークフリートの息子ファングよ。ゴブリンだけでなく我が先祖ヴォータンが封じたはずのゴリアテまで討伐するとは。こたびの任務、誠に大義であった。して……そのオークは?」  国王すら真っ先に気にするのも無理はない。  ファングは深呼吸をすると、国王をまっすぐ見つめ、事の詳細を話し始めた。 「陛下……私の隣にいるこのオーク……バルドゥインはかの戦いでも手助けをしてくれ……私を命懸けで救ってくれた、人生全てを尽くしても返しきれるかどうかという恩があるのです。そこで、従者とは名ばかりの相棒にしたく連れて参りました」 「ファング! そんなこと言ったら、ファングが悪者になっちゃう……」 「いいから。俺に任せろ」  ファングが小声で制する。

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