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第37話
「騎士たるもの、怪物はすべからく討伐すべし。それを重々承知の上で申し上げます。もしもこの国でバルドゥインが差別どころか討伐対象となるのであれば、陛下直々に拝命された騎士としての職を……誠に勝手ながら放棄いたします」
「へ、陛下の御前で何を申されますか、ファング殿っ」
「お言葉ですが、その陛下の前でそう白々しく善人を気取っていられるのも今のうちです教皇。たかだかゴブリン退治如きに破格の賞金を出して私を駆り出す口実を作ったのも、ついでにオーク……このバルドゥインが生きているという情報を売ったのも、ゴブリンにゴリアテの封印を解く指南をしたのも全てあなたの仕業でしょう」
「え……!?」
「なっ、何を証拠にそんな馬鹿げたことを……! いくら騎士長のファング殿でも言っていいことと悪いことが……」
「それは今から、何より陛下に委ねられるでしょう」
いつの間にか、代々王となる者しか飼い慣らすことができない赤い炎を纏った不死鳥が、国王の頭上を舞っていた。
それは善悪を判断する特殊能力がある、神聖な幻獣だ。どんなに凶悪な種族の怪物でさえ、手を出すことは不可侵である。
王都では人が罪を犯した際、不死鳥によって、有罪か無罪か、有罪であればその罪の重さを決めることも多いと聞く。
不死鳥の姿を見て冷や汗を噴き出させ焦り出したのは何を隠そう教皇だ。
教皇については、王都へ帰る途中にゆっくりファング自身から聞いたのだった。
彼は神に仕える身でありながら、その実態は激しい差別主義の男であった。
怪物どころか、身分の低い人間すら奴隷とし、人の扱いをせず自分だけ優雅に生活し、教会にすら出入り禁止なのだ。
この国での男女は真に強き騎士を産むことにもなり得るのだから、血脈を守るために伝統がどうのとのたまいながら……。
大金を積んでは女人を幾人もはべらせて孕ませ、生まれた子はそのまま奴隷として奉仕させたり、ろくな修行もしていないのに怪物退治に行かせては、亡骸を回収させて形式上の祈りを捧げる、偽善極まりない卑劣な行為もしている。
怪物に家族を殺されて孤児となった子供は、なおさら都合がいい。
教会で面倒を見ると言って、もう衣食住の心配なく温かく守り育ててやっていると民が思い込めば、自らの信奉者を増やすことになる。
実際はその子らも、孤児のまま団結して暮らしていた方がマシだったというような虐待すら受けているようだ。
ファングも騎士になる過程で父に怪物退治のいろはを教わったということもあるが、怪物がいかに穢らわしい存在かなどという一方的な考えは、教皇に刷り込まれていた部分が多かったと嘆き、バルドに出会うまでの己の思想を恥じていた。
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