「私は竜殺しのファングから、無名の流浪怪物ハンターとでもなりましょう。今すぐ王都からも出て行くつもりです。ですが……先代フリードを始め、ジークフリート家のような騎士の穴埋めがそう簡単にできるでしょうか？　ここで私が騎士を辞めては、陛下、民、王都どころかこの国全体にとって大きな損失ではないでしょうか」 　ファングは国王を前にしても、堂々とした態度でハッタリをかましていく。 　騎士団員や衛兵たちはどうしてよいかわからず顔を見合わせ、民衆からは「あんな怪物早く殺してしまえばいい」「庇うファングも同罪ではないか」と怒号さえ飛んだ。 　命を懸けてまで日々王都を、国を、何よりも民を守っているファングまで悪く言われるのは腑に落ちないと、バルドはひたすら悲しそうに俯いていた。 　だが、民衆には歴戦の数々を世に残しているジークフリート派の者も多く。 「……一理あるかも……ファング様にお役目を辞められてっ、またあんなにも恐ろしい怪物が出たらどうしたらいいの？　今の騎士団だけで勝算はあるのっ？　惨めに死ぬなんて御免よ！」 「お、俺にも家族がいるんだっ！　騎士様は俺たち平民を守るためにいるんだろう！　そ、それに……ファング様なら、何かあってもあんなオークすぐ殺せるもんな！」 　民衆の声というものは、時としてどんなに高位な者でも解きほぐしてしまうほど大きいもので、狼狽える教皇をよそに、国王は静かに頷いた。 「……ジークフリートの末裔にそこまで言わせるとはな。良いだろう、ファング」 「陛下……それでは」 「ああ。そこのオークよ、これからもファングを支えてやってくれはせんか。こやつはまだ若い故、危ない橋ばかり渡るのだ。騎士団も民にも心配をかけ、わしもほとほと参っていたところだ」 　おおよそ国王らしくない私的な言葉に驚愕したバルドであったが、国王の先祖も、あのゴリアテと邂逅した伝説の騎士だった。 　立場は違えど、若き頃の先代フリードと、幼少期のファングとも付き合いが長そうな口ぶりである。