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第39話
「オークは人の言葉を理解し、話すこともできるのであろう。わしの方こそ、こんな風に外見や種族の違いだけで差別するような者がおる国を統治する者だったとは面目がない。わしや皆のことも気にするでないぞ。少なくともわしは、バルドゥインと言ったか……そなたに王都で暮らし、仕事をする自由と権利を与えるべきだと思っている」
ただ家柄の良い貴族などよりはよっぽど国の歴史や、怪物への知識にも富んでいるのだろうが……それにしても。
意思の疎通ができるからといって、こんなにも怪物に寛大だなんて……本当に良いのだろうか。国王自体、その身分が危ういのではないか。
だがそれも、杞憂に終わった。
「それから……教皇。お主を慕う者もいるからこそ今まで目を瞑ってきたが、わしももう我慢ならん。今日でわしの前から消え去れ。着の身着のまま王都を去るがよい」
「そっ、そんな……私はずっと神に、陛下に仕えてきた身です! それはあんまりの仕打ちではないですか!」
「あの見るからに攻撃性の欠片もないオークに向かい、開口一番お主は何と言った?」
教皇はうぐ、と唸って黙ってしまった。
不死鳥は選別するようにしばしその場を旋回し、ゆっくりバルドの肩に降りてくると、安心するかのようにつぶらな瞳を瞑って、すりすりと頬擦りしてきた。
炎を纏っているというのに、熱を感じるどころか、魔法でできているのか優しい光に包まれているような感覚であった。
反対に、教皇には明確な敵意を持って聞き苦しい声で鳴き、その翼をバサバサと広げて威嚇した。
その態度の違いは歴然だった。
もう捕縛したという演技など要らない。
両手のロープを切られ、解放されたバルドをファングが見上げる。
「バルド。陛下直々の慈悲を頂戴できるとは、俺よりも素晴らしい行いをしたということだ。不死鳥もお前を認めている。真の英雄はお前かもな」
そうしてウィンクしてくる。
一連の騒動にそんな計画性があったなんて……全ては偶然の産物で運が悪かったと思っていたのに、その教皇とローゲによる計画にまんまと巻き込まれてしまったなんて……どこまでも何も知らなかった自分が情けない。
でも、ファングはそれを承知で、生かしてくれた。助けてくれた……。
国王陛下ともあろうお方さえ、もったいのないほどのお言葉、そして自由と権利をくださった。
もうこれ以上の幸せを願うのはわがままだろうか……元より自己肯定感の低いバルドは、それくらいに村民やファング以外にも存在を認められたことが嬉しくてたまらなく。
「こ、国王陛下……ファングっ……これからは、この生涯を捧げてでも王都に尽くします。ありがとうございます、ありがとう、ございますっ……!」
バルドは土下座しながら礼を述べつつも、一向に涙が溢れて止まらず。
見かねた国王とファングが、二人してまるで幼子に接するように泣き止ませようと宥める。
それはバルドがオークだからと差別と偏見に満ちていた民衆さえも心打たれるほどに、清らかな涙であった。
しかし、バルドが真に幸福になっていくのは、まだまだこれからだ。
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