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第42話
バルドは王都でも普通に歩けるようになり、住民らも特に気にしない、それが当たり前のような雰囲気になった。
それにしても、なぜ民衆どころか国王の見ている前で、あんな風に大胆なことをしたのだろう。やっぱりその場で死刑になるのかと肝が冷えた。
すると、ファングは「あのまま村で匿ってもらっていても別の騎士に倒されていたかもしれないし、何より俺がオークと通じていると勘違いされたら、やっぱり二人仲良く地獄行き」だと。
人を襲ったり盗みを働く悪い怪物も多いし、バルドだけだったらどんな扱いを受けていたか。
ファングが一緒にいてくれて助かった。ありとあらゆる意味で恩人だ。
あの後、王の命令の元ファングが騎士団を率いて教会へ乗り込み、奴隷扱いされていた人間たちは救出に成功した。
初めはみんな同じ人間を恐れ、またあんな目に遭うくらいならと自害しようとした者すらいた。それほどまでに教皇の洗脳は深く、彼がいかに極悪人であることが露見するだけだった。
だが、何とか説得し徐々に王都での生活に慣れると、生き生きと暮らせるようになっていった。自分の身は自分で守らなければ、と本当の騎士や傭兵を志願する者も出てきていた。
それはまるで、かつてのバルドと重なるような境遇であり、バルドもファングも放ってはおけなかった。
騎士団はひたすら怪物狩りに酷使されていたからそうそう政治にまでは介入できなかったが、それも狙いの一つでもあったのだろうか。
国王派と教皇派、小さな火種から内戦すら勃発し兼ねない状況だったようだ。
騎士の中でもジークフリート家のような名門でなければ、そのような国難にも関わらず、耳にすら入ってこなかっただろう。
現教皇は、前教皇の側近であり、長年見て見ぬ振りをしてきた罪悪感に蝕まれていた。
だからこそ、今度こそ一人でも多くの人を丁重に敬い、救い、御霊が安息を得るその時まで祈り弔ってやってくれと国王は命じたのだった。
前教皇はというと、それらしき人物が行商人も多く集まる街で惨めに物乞いをしていただとか、怪物に食われた死体の一部を見たとか、情報源のない噂だけは聞くことがある。
それこそ、またローゲのように怪物と手を組んで悪さをしなければいいが。
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