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第43話
村との交流もまだ続いており、今日は手紙が届いていた。
子供ながらの覚えたての文字で「ありがとう」と、絵まで描いて送ってくれている。
緑色で塗られた大きな人型らしきものは、予想しなくてもバルド。
難しかったのか、バルドよりとても小さく黄色で髪、灰色で鎧を表したように見えるのが、ファングだろう。
というより、ファングの下半身を重点的に丸で囲み、「ごめんね」とも書かれているから。ともすれば新手の嫌がらせだ。
バルドですら出会いを思い出し、クスッと笑ってしまう。もう遠い昔のことのようだ。
これを見たら……ファングはどんな反応をするんだろうか。
そもそもファングが強すぎるので用心棒をする必要はないとは思ったのだが、時に彼に言われるがままセイレーン退治に着いて行くと、ずっと洞窟か森林地帯にいたバルドが、海を見ることができた。
それは絵本や想像で見たものよりもあまりに美しい景色で、感激して瞳が潤んでいるのをファングに「泣いてばかりだな」と、優しい口調でからかわれる。
ファングはそれからも、バルドが知らない様々なところに連れて行ってくれた。
怪物退治は二の次の、ほとんど旅行だった。草木や潮の匂いを感じるたびに、生の素晴らしさを噛み締めた。
ファングはバルドにたくさんのものをくれた。同じように、バルドはファングにとって初めての経験をたくさんさせてくれた、と言っても過言ではない。
種族の垣根を超えて、どんなことでも理解ある良き友であり、背中を任せられる相棒であり、かけがえのない愛慕し合う者。
しかも、ずっと憧れていた王都一のお菓子屋さんに通い詰めた結果、バルドの熱意に店主が根負けしてようやく修行を許されることになった。
店主は厳しいが、そうして学べるだけでも毎日がとても充実していた。
バルドも伊達に練習していた訳ではないから、緊張しつつもいきなりケーキを作った際にはびっくりされた。
王都の技術でブラッシュアップをするどころか、田舎特有の素朴な味と、平民にも手に届きやすい価格で本格的な品質を提供できるのが良いとのことで……。
バルドゥイン印の何たら、と商品名を会議されていたのは、オークが作るお菓子が物珍しく売れるのではないか、という理由らしい。
実際に売ってみると、王都、いや国中で流行ってしまった。
特に得意だったケーキは連日行列ができて、先着順限定のレアものになっている。村ではよく作っていた、ありふれたものなのに。
ただ、高級品であったカカオが手に入るようになったおかげで、新たにチョコレートやココアを使ったお菓子をいろいろ作れるようになった。
もちろん、おいしくできたらその時は、真っ先に食べてもらうのはファングだ。
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