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第45話
バルドの方からファングをサプライズで祝うつもりでいたばっかりに、しばし固まってしまったが、答えなんて初めから決まっている。
「こっ、こちらこそ、よよよろしくお願いします! ……でも、バルドなんかを選んで本気で後悔しない……? バルド、人間族より寿命長い。ファングより長生きして……また独りになるのは、耐えられない……」
「その件なんだがな……数ヶ月前、俺が怪物退治にと遠征したことがあっただろう? あ、あれは嘘なんだ。王都では有名な逸話だが、秘境にフリッカの泉というものがあって……子に恵まれない夫婦が、泉の女神たるフリッカ様へ三日三晩と祈りを捧げれば授かるそうなんだ。そこに……行ってきた」
フリッカ様という女神は、愛や婚姻、出産の神とされていると王都の大図書館で読んで初めて知った。
「俺もだいぶ遅くできた子らしいが、やはり父上と母上も泉に行ったそうだ。その後すぐに懐妊したと言うから……逆算すれば完全にフリッカ様の祝福ということになる」
嘘を吐いてまで赴くなんて、性交中に赤子が欲しいとねだったのはその場の言葉の綾でも何でもなく、まさか本心だったとは……。
「そうだったんだ……。確かにフリッカ様は、人間の夫婦に信仰されてる女神様、みたいだけど……それって、オスとメスの話じゃ」
「いや、それがもう……バルドとの赤ん坊を懐妊していると……医者が」
ファングは恍惚とした目で腹を撫でさする。
戦場では動きやすい軽装の鎧、私生活は高貴な者はみんなそうで、身体のラインが見えにくい大きめのブラウスを着ている。
そのせいでわからなかったが、確かに言われてみればふっくらしているように見える……。
それでは、いつでも最前線にいたファングなのに、近頃は「俺が直々に全員みっちり扱き上げてやる」と言っては怪物退治をサボり、訓練所で臨時の鬼教官となっていたのも。
甘党ではあるが、普段の食事にプラスしてやけに菓子ばかり大食いするのも。
子連れを見て興味ありげにいたのも。
夜の営みを求めてこなくなったのも、時折体調が悪そうにしていたのも。
日々の疲れが祟ったかと心配だったのに…………全部。
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