いくらバルドとはいえ、異種族、それも同性同士での婚姻など。しかもあろうことかファングが身籠っているなど。 　異例づくめの結婚であったが、何としても阻もうとする教皇はもういない。 　それどころか、前もって国王に伝えたところ、実の孫のことのようにたいそう喜んでくれた。 　どうしてもファングが子を望んだ理由も何となく察してくれているようで、「不死鳥に認められたバルドが、フリッカ様にすら選ばれたとは誠奇跡である」「種族など関係なく、子は等しく国の宝である」と。 　次期国王に即位するであろう第一王子も、初めはいくら王とて父のバルドに対しての言動には驚きっぱなしだった。 　ファングと幼なじみであるせいか、最終的には個人の恋愛事情に口を出すほど器の小さな人間ではないから、互いの種を脅かしかねないのであれば勝手にすればいい……と肩を竦めてみせた。 　ファングの活躍ぶりを根っから買っていた一ファンでもあり、そして実のところはバルドのお菓子が大好きでこっそり城下町に繰り出しては、民と同じ扮装で買いに来るほどの常連客だったと本人の口から聞かされたのは、前国王が崩御し、正式に即位してからの話であるが。 　英雄ファングと心優しきバルドの国を挙げての婚礼の儀は、気持ちだけではなく正式に神へと誓い、民にも祝福される形となった。 　その日だけは、国中が一つとなって、怪物の脅威など忘れるほどに、宴を楽しんだ。 ◆ 　それから数十年の時間が過ぎ、数多の激戦の伝説を残しながら、ファング・クヴェレ・ジークフリートはこの世を去った。 　ファングの両親や民の平均年齢からすると、だいぶ長寿の類いで、本人が語った理想通り、老衰であった。 　戦いでどんなに深手を負っても落命することはなく、バルドの……そして可愛い可愛い二人の間にできた息子の元へと必ず帰ってくる。 　寿命以外では何があっても死なない。それがファングの、家族との誓いだった。 　いつまで経ってもお互い……というか主にファングの愛情表現が強く、怪物退治に外へ出るたびに、抱き締めてからの深い口付けをするのが二人のスキンシップ。 　物心つく頃から、思春期に入った息子の前でもお構いなしだった。 　世間では騎士団の英雄ファングと、オークでありながら一流菓子職人であるバルドの夫婦で知られていても、息子にだけは「たぶんうちの両親は馬鹿なんじゃないか？」と思われていたに違いない。 　バルドも仕事の準備で忙しく忘れてしまった際は、ものすごく不機嫌になられた。 　その日に討伐された怪物は、それはそれはもう、腹いせにもほどがあるような倒され方をしていたとか。