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第51話
「さっき訓練中に……他の奴らに石投げられた。あいつら容赦ないんだ。教官だって止めないで笑ってやがった。俺がジークフリート家だから下手にやり返せないのを知ってて……混血種だからって……!」
ウィングは当然ではあるだろうが、ファングを心から尊敬しており、比較的早い段階から「自分も騎士になりたい」と将来の夢を明確に決めていた。
だけど、バルドや人間の差別が緩和されたからといって、混血種は王都では恐らく初めてだ。
特に、子供は純粋なだけに、異端の者を排除しようとする傾向がある。
ファングが聞いたら、本気でお家ごと潰されるところだ……二人とも親馬鹿な自負はあるが、彼ならやりかねない。
むしろ揉め事を起こさずにいることに感謝さえしてほしいくらいだ。
「そっか……。でも、そんな低レベルなことをしている暇があるなら、もっと鍛錬に明け暮れて、身も心も騎士になるべく死に物狂いになるべきだ……。って、少なくともファングはそう言うだろうね」
「うわ。バルド自身の言葉じゃねぇのかよ。しかもめちゃくちゃ説教くせぇ」
根性論では駄目か。
なら、事実は小説より奇なりな話でもしてやろう。
「……バルドも小さい頃は、よく虐められていたよ。たくさん物を投げ付けられて……酷いことを言われて……お父さんには毎日存在否定されて。人が死んでいく様もずっと見てきた」
「う、嘘だっ。バルドはあのゴリアテ戦でも活躍したくらい強いんだろ? 英雄譚の読み聞かせをしてくれる時、バルドがいなかったら生きてなかった〜ってファングはいつも言ってた!」
ファングの活躍はともかく、バルドについてはかなり脚色されているようだ。
実際は無我夢中であまり覚えていないのが本音なのだけど。
「そ、そうなんだ。ファングが……。でも、大人になっても弱かったのは本当だよ。身体が大きいだけで、何もできなかったし。だから、一生懸命トレーニングしたんだ」
「それってやっぱ、怪物退治のため?」
「ううん。自分の身を守るためだよ。どんなに鍛えても中身は変わらなくて……人間すら怖いくらいで。でもファングが……バルドを強くしてくれた。大切なことに気付かせてくれたんだ」
「だーかーらー、要するに、なに? 戦い方を教えてくれたってこと?」
「そうじゃなくて……ここの強さが大事なんだよ」
バルドはウィングの胸をポンポン、と軽く叩いた。
ウィングはチョコレートをつけた口をあんぐり開けていた。
「……っんだよ、そんなのいくら訓練してもわっかんねぇよ。剣術や体術だけじゃない、どんな怪物が現れても焦るな、恐怖を乗り越えて精神統一しろとか、どうやったらそんな曖昧なこと……。ファングだったら簡単にこなせたかもしれないのにっ……!」
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