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第52話

 物事が上手くいかないがゆえの、ただの子供の八つ当たりだ。でも、やっぱり少し寂しい。  ファングとウィングは違うから。  ウィングには、本気で騎士になるつもりなら、劣等感で諦めてほしくないから。 「……ファングもね、実のところは訓練生の頃、かなり苦労したみたいなんだ。何せ父親がフリード様だよ?」 「うっわ、そう考えるとエグ……。会ったことないからどんだけ厳しいかは知らないけど、あのお祖父様と比べられるのって、精神的にもめちゃくちゃキツかったんじゃないのか?」 「うん。それでも、地獄の日々を耐え抜いて、若いうちから騎士長にまでなって。なかなかできることじゃないよね」 「……ファング、全然そんなこと話さなかった。いつも自分が強いのは当たり前だって感じでさ。影の努力家とか先に言えよな……んなの聞いたら……やっぱりもっと騎士に憧れるっつーの」  ウィングは身を震わせ、必死に泣きそうになるのを堪えている。 「でもっ……こんなんじゃ俺、ファングに顔向けできないっ……国王どころか、教官にすら……まだ誰にも認めてもらえてない!」  彼は本当は、二人の子だからこそ生まれつき強いとたかを括っている節があったのだ。  それがいざ拳や剣を振るうと、実践的なことは何も試していないせいで、どうにも上手くいかない。  幼少時代に甘やかしすぎてしまった……と言えば元も子もないが、その頃はまさかウィングまでも騎士を目指すなんて、命懸けの戦いに身を投じる職に就きたがるなんて、思いもしなかった。  当人の自由にさせてやりたいという考えは真実に他ならなかったけれども、もし何かあったら……とウィングを失うのが怖くて、初めのうちは内心こそ反対だった。  ウィングは自分のせいで、伝説のジークフリート家にまで汚名を着せる劣等生に成り下がってしまうと、それが悔しくてたまらないと、今にも感情を爆発させそうになっている。  ブルブル震える握り拳を見て、ファングもこんな時期があったのかもしれないと連想する。 「まだ、かもしれないけど、なるんでしょ、ファングみたいな騎士に。もうウィングの心は立派な騎士だよ」 「……上手いこと言ったつもりかよ、うっせバカ」 「悪態付くのは構わないけど、チョコレート拭いてから言ってね。ほら、口の周りいっぱい」 「ちょ、待っ……何すんだよっ、自分で拭けるから! 余計なことすんな! 俺もう子供じゃねーっ!!」  そういうところが子供なのだけど。  まだまだバルドの方が力強くて、暴れるウィングの頬を掴んでナプキンで拭いながら、きっと今この瞬間も交戦しているのであろうファングを想う。  ウィングは笑ってしまうほどお互いによく似ているよ、と。 「……俺、必ず騎士になるから。バルドにもファングにも、どんな怪物にも負けないくらい、絶対強くなってやるから」  決意を新たにしたウィングに、バルドもまた、ファングと共に彼の夢を全力で応援しようと決めたのであった。

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