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第4話  どうかしてる話し

神崎 赤嶺の親友 羽山 赤嶺の後輩 数ヶ月振りに呼び出された居酒屋でいつもはウザいくらいのリア充がこれでもかって程、項垂れてた。 「……で、お前は何でそんなに死にそうな面してんだ?」 このリア充が落ち込む原因など分かりきった事だが、敢えて尋ねてみた。よく見ると右頬が薄らと腫れている。恐らく引っ叩かれたのだろう。 「シンさんが……」 「慎一さんが?」 「男と付き合ってんだ」 「……ふーん」 俺と赤嶺の大学の先輩にあたるシンさん事慎一さんはイベントサークル時代から派手で有名だった。実家が金持ちという事もあり、容姿はパリピのチャラ男であるが兄貴気質で面倒見も良く、何事もそつなくこなす器用さで男女問わず人気があった。片やこのグズグズ言ってる赤嶺は図体がデカく容姿も整っている為どこにいても悪目立ちする上にデリカシーが欠如している俺様で、男の友達よりは圧倒的に女に言い寄られる事が多かった。ぱっと見は接点が無い様に見えるがこの赤嶺の世界の中心は慎一さんに出逢った日からあの人一択だった。うっかりデキている様に見えるが、双方自他共に認める女好きでフリーでいる時の方が珍しかった。 「何で驚かないんだ?神崎」 「……んや、多少は驚いてるけど」 「けど?」 「別に有り得る話しじゃねーの、あの人実際どっちでも良さそうじゃん」 ぶっちゃけ、俺でも有りかと思う程綺麗な顔立ちをしている。中身は別として。 「……でも、俺は耐えられなくて別れてくれって言ったんだよ!そうしたら、シンさんが怒っちゃって…」 「叩かれたって話しな?」 項垂れる様子に大体の内情を把握した。まぁ、ぶっちゃけただの後輩に恋人と別れてくれって言われてもなぁ。キレるわな。大体、この阿保は何の権利があってそんな事を言い出したのか…。 「それで、俺にどうして欲しいって?」 赤嶺から呼び出された本題を聞き絶句するも、俺は数日後このダメ男と先輩の中を取り持つ事となる。 *** 「オイ、神崎!お前俺を騙しやがったな?!え?!こんの、クソが。これだから赤嶺絡みは嫌なんだよ…」 「すんません、シンさん!」 「謝れば何でも許されると思ってんなよ?!」 赤嶺の愛車一台と引き換えに呼び出された慎一は馴染みのミックスバーで容赦無く吠えていた。 「まぁ、まぁ落ち着いて。シンちゃん。ほら、神崎くんも椅子に座って」 「ケッ、何がスンマセンだバーカお前なんぞどうせ赤嶺に泣きつかれただけだろ?!床で良い座らせとけ!」 いつに無くご機嫌斜めの先輩に謝り倒しながら俺はマスターに言われ小さくなりながらソファに座り直す。流石に床に正座はきつい。 「こんばんは。初めまして、あいらです♡」 先輩の水割りを作っていたところで不意に声を掛けられる。驚いて振り向くとピンクの髪をふわふわと揺らし満面の笑みを向けて名刺を差し出す美少女がいた。 「これ、私の名刺です♡良かったら指名して下さいね♡」 そこだけファンシーな空気に塗り替えられるとあいらと名乗る女の子は当然の様に先輩の隣へと座る。 「シンちゃん大丈夫?何かご機嫌斜めだね?」 綺麗に整えられた指先が先輩の頬に触れる。 「何でもねぇよ。あいら、コイツ俺の後輩で赤嶺のツレ。神崎っつーの。宜しくしてやって?」 「初めまして、神崎と申します。雑誌の編集者をしています」 あいらちゃんにお返しとばかりに名刺を差し出すとキラッキラした指先で受け取られた。よく行くガールズバーの様で内心ほっとする。 「シンちゃん、あれから赤嶺さんとは仲直りしたの?」 あいらちゃんがきらきらした瞳で先輩を見つめている。あからさまな営業にプロ意識を察知しつつ俺は大人しく水割りへと口をつけた。 「はぁ、あいら。お前まで赤嶺の話をするなよ。あのバカの事はもう、知らねーよ」 「だって、シンちゃん!あいらのせいで赤嶺さんが…」 二人のやり取りに頭がついて行かない。赤嶺の阿保は女問題にまで今更口を出しているというのか…とんでもねぇな。 「……そんな顔すんなよ、あいら。お前のせいじゃないから。な?あいらには笑っていてほしいって言ったろ」 え、シンさん。ちょっと何か雰囲気がヤバくありませんか? 「シンちゃん♡大好き♡」 あいらちゃんの指がシンさんの頬へと添えられ、シンさんの手があいらちゃんの顎元を捉えゆっくりと二人の距離が縮まって行く。 アルコールで濡れたシンさんの形の良い唇と、グロスに濡れて光るあいらちゃんの唇があと少しで重なり合う…!と、期待にドキドキしながら見守っていると、不意にその場に不釣り合いな大きな掌がシンさんの唇を覆う。 「羽山、テメェ何してんだよ」 恐ろしく低い声で唸る赤嶺に唖然とする俺、強引に引き剥がされ目を丸くしているシンさん。 そして… 「赤嶺さん、あいら♡って教えたでしょ」 「知らねぇよ、羽山は羽山だろ。何なら此処でお前の化けの皮剥がしてやっても良いんだぜ?」 バチバチと火花を散らす二人の様子にシンさんと、俺、マスターの三人は盛大に溜息を吐いた。 「あいらちゃん、今夜は貸し切りだからもう着替えちゃっても良いわよ。その方が冷静に話しが出来るんじゃない?」 「はーい♡ありがと、ママ!着替えて来るね♡」 赤嶺の登場により予定が狂ってしまったが喧嘩の原因であるらしい?あいらちゃんを交えての話し合いとなった。 「シンさん…何で羽山なんですか?」 慎一さんを角席へと追いやりガードする赤嶺。 本当にお前、先輩の何なの? 「……うるせぇな。あいらちゃんとは何も無いっつってんだろ」 グビグビと水割りを飲みながら慎一さんが赤嶺を睨みつける。 「じゃあ、あのキスマークは誰が付けたんですか?」 「知らねーよ。酔っ払ってたし、お前が回収したんだからお前が知ってんじゃねーの?」 「酔っ払ってたら、誰でも良いんですか?アンタは」 「誰もそんな事は言ってねぇ」 今にも殴り合いそうな二人の険悪な空気を他所にさらっと真実が告げられる。 「あのキスマークは俺だよ、赤嶺ちゃん」 え?! 一瞬にして室内の空気が凍りつく。 「あっれ〜?ママ言っちゃうんですか?」 「ごめん。まさか喧嘩の原因がおふざけだと思わなくてさ」 にっこりと笑顔で告げるマスターの顔つきはいつもより男らしかった。 それにしても、メイクを取ったあいらちゃん事羽山さんは普通のイケメンで、赤嶺が誤解していた彼氏というのも納得だ。 「はー、それにしても今のメイク技術って凄いですね」 感心する俺に羽山さんが肩を揺らす。 「何なら、今度してあげましょうか神崎さんにも!」 「いえ、結構です!俺は本当にノーマルなんで!」 「あら、メイク似合いそうよ?神崎ちゃん。やってもらったら?」 「いやいやいやいや、遠慮します!」 首を横に振る俺に羽山さんは残念だと笑う。マスターと三人で飲みながら、盛大な痴話喧嘩に巻き込まれた俺たちは朝まで迷惑な二人の話題で盛り上がった。 END

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