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第7話 内緒話し

赤嶺&慎一 大人になってから気づく気持ちもある。 誰にでも初めての機会はあるもので、さんざん女を食い散らかした男にも、恋多き色男を気取った男にも、漏れなく未経験というものは存在する。 例えば、一方は長年無自覚に執着していた先輩に触れるのを我慢出来ずに迫った挙句逃げ道までも奪った状態でのし掛かり。 その一方もまた、人たらしの名の通り散々無責任に甘やかし、好き放題我儘三昧させていた癖に肝心の本音は隠したままではぐらかし、遂には安全牌の後輩に組み敷かれているこの状況。 互いにお得意の火遊びであるにも関わらず。どうしたのか、上手く先に進む事が出来ずにいた。 パーティーを抜けたラウンジで酒を飲む姿に見惚れたのは本当で自分より年上の男に柄にも無くときめいてしまった。 出逢った頃から童顔で人懐っこい雰囲気なのに、中身は容姿に似合わず男らしく豪胆で彼のリーダーシップに憧れる奴は多かった。今でも抜群の判断力には仕事上でも助けられている。 男同士の恋愛なんて考えた事もなかったけど。 見下ろした相手の表情に体温が上がる。 体の奥から熱が込み上げてくる。 「シンさん」 お決まりの台詞が出て来ない。このまま強引に奪ってしまえば良いのか? それとも、ここは振り出しに戻して口説けば良いのか…。 「シャワー浴びて来いよ…このままじゃスーツが皺になる」 静かな口調で告げる相手の声音に胸が苦しくなる。 こんな時でも冷静なんてさすが慎一さんだ。 「それは俺と一晩過ごす覚悟があるって事ですか?」 女を口説く時には使わない台詞だ。 「お前こそ、俺と一晩過ごす覚悟があるのかよ」 頬に触れる指先の感触が心地良い。近くで見ると印象的な目元を彩る睫毛が長く、小振りで薄く整った唇が酷く官能的だった。 「あります。シンさんが受け入れてくれるなら……」 我ながら何とも弱腰な回答だ。 「本当か?一度、境界線を踏み越えたらもう元には戻れない。それでも良いのか?」 慎一さんが真っ直ぐ見つめてくる。 「赤嶺、シャワー浴びて来い」 「…はい」 元には戻れない。グッサリと俺の胸を抉る言葉だった。 「ばーか。泣きそうな面してんじゃねーよ。良いぜ…一緒に超えてやるよ、境界線」 慎一さんの腕が俺を引き寄せる。気づいた時にはしっとりと濡れた唇が俺の唇へ重ねられていた。 「ん、ん…っ」 戯れの様に触れては離れ、また柔らかく触れられる。濡れた舌先が唇の形を辿る度に胸が締め付けられた。 「…っ、シンさん…好きです」 ぽつりと零れた台詞を拾う様に柔らかい唇が吸い付いて来る。 「…俺も、好きだ」 小さな声でそう返されると悪戯好きな子供の様な瞳と視線がぶつかった。 かぁっと一瞬にして顔が赤くなるのが判る。 それと同時にビリっとした電流が全身を駆け抜ける。何より確かに先輩への恋心を理解する瞬間だった。 END

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