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第52話 恋愛感情

 結局誠は大丈夫って言うだけだし、その後は他の友達も居たので結局話せず帰ってきた。  マンションの近くまできて、チャイムを鳴らす? 勝手に鍵開ける? てとこから、実は悩んでいる。  まだ颯と一緒にしか、ここに帰ってきてない。  初めて、一人で帰ってきたから。  鍵は持ってるから、もちろん一人で入っていけるんだけど。  一応、ピンポンしてみよ。  部屋番号を押してみると。 『おかえり』  笑みを含んだ優しい声がした。  同時に目の前の自動ドアが開いた。  ……押して良かったかも、なんか声が聞けて嬉しかった。  なんて思いながら、軽い足取りで自動ドアを通ってフロントの前を通り、エレベーターに乗り込む。  ――――声だけで嬉しいとか。ヤバいな、オレ。    颯を好きなの? って、誠に聞かれて、赤面した。  なんかもう恥ずかしいけど、言葉で否定したって無駄だよなぁと思う。  今は、好き。  Ωだと認識したあの日、色んな話をしたり、颯に抱かれたり、その翌日の家族たちとのやりとりも、その後の、結婚準備の諸々も。その間に颯と交わした全部が好きだった気がする。すごく照れるけど、多分、ほんとに全部が好きだと思ってしまった。  颯は、オレがαの時から気に入っててくれたって。  オレの匂い(?)にも、すれ違った時に気づいて、それのせいで、彼女とも別れてくれたって言ってたし。αのままなら、何も行動は起こさなかったというのも、なんか颯らしいし、それはオレも意味は分かる。  いいとこのαの息子同士でくっつくのなんか、正直すげー大変だもんな。  家的にも、色々、弊害が多すぎる。それに、オレ、αのままだったら、こんな風にはなってないと思うし……。  颯は前からって言ってくれてたけど、オレは、いつから好きなんだろ。  もう何度か考えてるけど。もしかしてあの執着は、好きだったのかなとかも思ったけど、よくよくよーく、考えると、中高は、今みたいな、「恋愛」ではなかったかなあと思う。ドキドキしてたとかではないから。  嫉妬? ……ツートップとか言われながらも、なんとなく全体的にみると、颯の方が上な気がして、悔しかったていうのは、絶対あった。だから負けないようにって、思ってたし。  なんか颯を見かけると、わーっと感情が盛り上がって、このやろー、て思ってたような。  あほだなーオレ……。  思わず苦笑い。そう考えてると、好きだったのかどうかは謎になるけど。  まあ、家族皆に、颯の名前出しまくったのも暴露されたし。どっちでも、意識しまくってたのは分かってるけど。  あの日から好きなのは絶対。  ……好きって、言えるかなあ、いつか。  ちゃんと好きって返さないと。  嫌われちゃったりしたら、やだもんね。 「……すき」  一人のエレベーターで、小さく、発音してみる。  別に普通の二文字で。言えない言葉じゃないのに。颯に言うって思うと、なんか詰まる。  むーーーん……。  困ったまま、エレベーターを出て、颯の部屋の方を見ると。  途中まで、颯が来てくれてた。 「慧、おかえり」  見つけた瞬間、困り顔が解けた気がする。  なんか嬉しくて。 「ただいま!」  駆け寄って、颯に並ぶ。 「――――……ん、おかえり」  オレをマジマジと見下ろしてから。ふ、と笑われる。 「ん?」 「……いや。なんでもない」 「? ごはん、なに??」 「見てのお楽しみ」 「何だろ」  わくわくしながら部屋に入ると「慧」と呼ばれた。振り返ると腰に回った手に抱き寄せられて、急に、キスされる。 「ん……?」  なんかすごく優しいキス。触れて、少し離れてまた角度を変えて、キスされる。触れるだけ。なのになんか。胸の中、きゅん、とする。  キスが離れて、見つめられる。 「……はやて?」 「お前の、笑った顔」 「……?」 「ほんと、可愛いよな」  最後に、ちゅ、と頬にキスされて。赤くなったオレを撫でてから、颯は靴を脱いで中に入った。 「手洗っといで、用意しとくから」 「うん」  ……何だかめちゃくちゃいい笑顔で見られてしまった。  なんか。颯ってああいう奴だったんだな……。  オレ本当に、すごい好きかもしれない。  いつからとか関係ないな、うん。  ていうか、オレの笑った顔って?  ただいま言った時? 笑ってたっけ。 (2023/10/22)

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